第6章 最後の戦いへ

駆けつけた人々

「本当にもう……人使いが荒いんだっての。」



 人知れずルカの背後に忍び寄っていたジョーは、疲弊を滲ませた顔で笑う。

 そして、注射器に込められた赤い液体を迷いなくルカへと打ち込んだ。



「つ…っ」



 次の瞬間、ルカの体がふらりと傾ぐ。

 それを支えたジョーは、彼に無理をさせないような体勢を意識して、その体を地面に横たえた。



「ルカ!!」

「ルカ君!!」



 倒れたルカに駆け寄る人物が、さらに二人。



「げ…っ。兄さんに、カティアさん…。なんで……」



「僕一人じゃ、治療担当が足りませんからね。そもそも、僕は医者じゃないし。で、誰かを同行させようと医療部に顔を出したら、この二人が死に物狂いでついてきた。」



 しれっと答えたジョーは、エリクが肩から下げていたかばんに手を突っ込み、包帯を取り出す。



「とりあえず、ここでは血管だけ圧縮しておくよ。剣を抜くのは、外の治療テントに移ってからだ。エリク、この状況で必要な措置を、外の医療班に指示しときな。」



「言われなくても!!」



 早くも涙目のエリクではあるが、仕事は仕事と、電話を片手に外部とせわしないやり取りを交わす。



 それを横目に、ジョーはルカの太ももの付け根に包帯をきつめに巻きつける。

 さらにはカティアが、肩や二の腕の傷を素早く手当てしていった。



「ルカ…。エリクさんの仕返しって、どういう…? ってか、アルは宮殿に残るはずじゃ―――」

「はいはーい。細かい話は移動しながら。早いとこ脱出しないと、全員仲良くあの世行きだよー。」



 揺れが大きくなってきた洞窟内。

 確かにジョーの言うとおり、このままここにいるのは危険だと思われた。



 他に駆けつけてきた数人の手により、ルカの体が担架へと移される。

 急ぎ足で運ばれるルカに、キリハ、ジョー、エリクたちと続いていった。



「ルカ……大丈夫?」

「大丈夫なわけあるか。くそいてぇ。」



 荒くなる呼吸を噛み殺しながら、ルカはキリハにそう答える。



「それにしても、遠慮なくぶった切ってくれやがって。」

「え…? いや、その……ほとんどは俺じゃなくて、ユアンがやったといいますか……」



 ルカにじろりと睨まれ、キリハはとっさに弁解。

 すると、ルカはあっさりと不満を引っ込めた。



「ああ……あいつならやりかねんな。そこの真っ黒野郎と徒党を組んで、容赦なく邪魔者を撲滅する仕込みをやってるくらいだし。」



「おんやぁ、他人事かい? あの秘密基地に招待された時点で、君もこちら側に片足を突っ込んでるんだけどなぁ?」



「引き込もうとすんな。まだギリギリセーフだ。」



「まだ、ねぇ?」



 ルカを見下ろすジョーは含み笑い。

 それを見たルカは、大きく舌を打ってから顔を逸らした。



「それで、ルカ…。もしかして、最初から全部知ってたの?」



 意を決して、キリハはルカに訊ねる。



「いや。ロイリアにレクトの血を含ませた辺りまでは、何も知らなかった。」



 彼は最初、首を横に振る。



「じゃあ……」

「シアノだよ。」



 次の質問は、言葉を言い終えるよりも先に答えが返ってくる。



「シアノがな、勇気を出して真実を伝えてくれたんだ。」



 目を閉じて、深く息を吐くルカ。

 その表情に、微かな笑みが浮かんだ。


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