第8章 それぞれが歩んだ道
半年ぶりの帰国
セレニアの北東部に位置するクルタン空港。
搭乗口に程近いカフェテリアで、ルカとカレン、サーシャの三人は二時間以上もの時間を潰していた。
「あの馬鹿猿は、マジでいつまで待たせる気なんだ?」
三杯目のコーヒーを飲み干して、ルカが不機嫌極まりない声でぼやく。
「まあまあ。半年ぶりに帰ってきたんだし、向こうでも積もる話があるんでしょ。」
「ジェット機には乗ったってメッセージが来てたし、もうすぐだと思うよ。」
これも慣れたこと。
カレンとサーシャはのんびりしたものだった。
「……あっ。もうすぐ搭乗口から出るって!」
そこからさらに三十分後。
メッセージに気付いたサーシャが表情を明るくする。
ここでは待ちきれないのか、彼女は席を立って小走りで搭乗口へ。
そんな彼女を見送っていると、彼女が向かう搭乗口からキリハが現れた。
キリハはサーシャを見つけると、満面の笑顔を浮かべて大きく手を振る。
二人は周囲の目なんて気にせずにきつく抱き締め合い、熱烈な再会のキスを。
「遠距離になってからも三年以上続いてるだけあって、相変わらずラブラブねー。」
これも慣れた光景なので、ルカもカレンも特に突っ込みはしなかった。
ドラゴン討伐の全てが終わってから、もう五年半ほど。
猛勉強の末に高校卒業資格を獲得したキリハは、ノアの紹介でルルアの大学に留学した。
『ルルアには、ドラゴンについて勉強できる学校とかってあるのかな? もしあるなら、ドラゴン討伐が終わったら通ってみたいなって思うんだけど……』
キリハの引き抜きに失敗したノアが帰る際、ジェット機に乗り込もうとしたノアに、キリハはそう訊ねたそうだ。
引き抜きチャンスが潰えたわけじゃないと知ったノアは狂喜乱舞。
そんな彼女の下心と厚意で、大学だけではなく、ルルア国立ドラゴン研究所にも特別研究員として所属させてもらっているという。
そんなこんなで、途中から遠距離恋愛とならざるを得なかったキリハとサーシャだが、何せ互いにマイペースでのんびり屋の二人だ。
あの様子を見る限りでは、二人なりに仲良くやっているらしい。
「二人とも、待たせてごめーん。」
サーシャと共にカフェテリアに入ってきたキリハが、ルカとカレンに手を合わせる。
それに二人が何かを言う前に、キリハの目が別の方向に集中した。
「わあぁ! ニーナちゃん、おっきくなったねぇ!!」
カレンの腕には、今年二歳になるニーナが。
「ああ、そっか。半年前はニーナが風邪引いてて、会えなかったもんね。抱っこする?」
「するする!!」
ニーナを抱き上げたキリハは、非常にご機嫌だ。
最初はきょとんとしていたニーナも、キリハの朗らかな雰囲気にほだされて、次第にキャッキャと笑い始める。
「あはは。ニーナちゃんは、人見知りしない子なんだねー♪」
「いや、めちゃくちゃするわよ。」
キリハの言葉を、カレンがばっさりと否定する。
「え? こんなに人懐っこいのに?」
「それは、キリハだからじゃなーい? パパが大好きな人だって、本能的に分かってんでしょ。ほとんどの人はてんでダメ。
「………」
パパことルカは、何とも言えない顔で視線を明後日の方向へ。
「つーか、キリハ! お前なぁ、こっちがどんだけ待ったと思ってんだ。」
結局、無言でやり過ごすことができなかったらしい。
話題を逸らしたいルカが、キリハに文句をぶつけた。
「だから、ごめんってばー。先にロイリアを送っちゃおうと思って西側に行ったら、リュードもレティシアもなかなか離してくれなくて。明日も来るからって言って、ようやく解放してもらえたんだよー。」
「ロイリアは?」
「まんま、西側に置いてきたよ。普段は俺と一緒にルルアにいるんだし、こんな時くらいはリュードたちと過ごしてもらわないとね。」
「……って、説得したわけね。」
カレンが突っ込むと、キリハは「あはは…」と苦笑い。
ロイリアのキリハ好きも、ここまで来るとすごい。
まさか、キリハにくっついてルルアにまで飛んでしまうなんて。
今ではセレニアだけではなく、ルルアでもロイリアに乗ったキリハの姿が普通に見られるという。
そのために、ルルアで真っ先にドラゴン使いの資格を取らなければいけなくなって大変だと、いつぞやのキリハが泣き言を喚いていたか。
「―――で……」
文句を言ったことで溜飲が下がったらしいルカの目が、キリハの後ろに注がれた。
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