呼び出された助っ人



「―――で? なんでオレが呼ばれるんだよ。」





 焦ったキリハに電話で呼び出されたルカは、開口一番にドスのいた口調で文句を放った。

 そんなルカに、眉をハの字にしたキリハは安堵の息を吐く。



「だって……ディア兄ちゃんたちは忙しいし、サーシャやカレンには迷惑かけられないし、頼れるのっていったら、ルカしかいなかったんだもん。」



「おい、てめぇ。一度、オレへの認識を改めろ。」



 ルカは心底不愉快そうだ。

 でも、これがルカの普通なのだと知っている今は、特に不快にもならない反応である。



 この表情が、彼の本当の心を表しているわけではないのだ。

 その証拠に。



「そんなことを言いながらも、ちゃんと来てくれるルカ好き。」

「黙れ。」



 キリハが素直にそう告げると、ルカは途端に頬を赤らめてそっぽを向いた。

 そして照れ隠しなのか、すぐに溜め息をついて髪の毛をぐるぐると掻き回す。



「あーもー…。来た後で文句言っても、しゃあないな。お前はまた、なんつー拾いもんをしてんだよ。」



 キリハの腕に抱かれた少年を見やり、ルカはしかめっ面でその場にしゃがんだ。



「こいつ、誰?」

「それが、まだ分かんなくて…。話を聞く前に倒れちゃったもんだから。」

「マジかよ……」



 ルカはがっくりとうなだれる。



 この大馬鹿野郎。

 そんな心の声が聞こえてくるようだった。



 さすがにルカも困っている様子。

 しかし彼は一度大きく息をつくと、真面目な表情で顔を上げた。



「熱か? 怪我か?」



 少年の前髪を掻き上げ、ルカはその顔色をうかがう。



「熱は、ないみたいだけど……」

「今はな。こんなに体が冷えてりゃ、そりゃ倒れるわ。」



「うん。だからせめて、どこかあったかい場所で着替えさせてあげたいんだけど、宮殿って関係者以外入れないじゃん? それに、ほら……」



 キリハは目を伏せる。



「この子の髪の色、珍しいでしょ。目の色も真っ赤でさ……」

「!!」



 それを聞いたルカが、瞬く間に顔色を変えた。



「なんか、普通の人には助けてって言いにくいっていうか……」

「………」



 ルカはキリハが言いたいことを察し、眉根を寄せて地面を睨んだ。



「…………行くぞ。」



 唐突に言い、ルカはその場から立ち上がる。



「え…? 行くって、どこに?」

「兄さんが住んでるマンション。」

「ええっ!? エリクさんのとこに行くの⁉」



 ルカが告げた行き先に、キリハは素っ頓狂な声をあげてしまった。



「仕方ねぇだろ。オレが宮殿以外に行けるとこなんて、実家か兄さんだけだぞ。実家にはお袋がいるから説明めんどくさいし、行くなら兄さんのとこしかねぇよ。どうせ仕事で留守だろうし、部屋だけ勝手に貸してもらう。あの能天気兄貴なら、特に気にしねぇだろ。」



 すたすたと先を進んでいくルカ。



 エリクに迷惑をかけることに少し躊躇ちゅうちょしてしまったが、今はこの少年の服をどうにかするのが先決だ。



(エリクさん。お部屋、少しお借りします。)



 心の中で一礼し、キリハは少年をおぶってルカの後を追うことにした。


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