第5章 亡霊の正体
とある人物の始動
「―――そうか…。そんなことがあったのか。」
夜中に震えた携帯電話。
画面に映った名前は、想定外の相手だった。
珍しいこともあるものだ。
彼女の連絡先を
これは、相当大きな何かが起こったに違いない。
そう確信して電話には出たが、まさかこんなことが起こっていたとは。
〝キリハと仲がいいあなたにも、どうか彼を支えてあげてほしい。〟
彼女は涙ぐんで、そう頼んできた。
「ああ、もちろん。キリハは私の大切な友人だ。できうる限りの協力をさせてもらおう。」
頼みを断るつもりはない。
こんな話を聞いてしまっては、頼まれなくてもそうするつもりだった。
「時に……その事件のことを、順を追って詳しく教えてもらえないか?」
訊ねると、彼女は理路整然と事のあらましを語る。
大勢の前での説明や討論に慣れているだけあって、疑問を残さない完璧な話だった。
なんと
キリハの瞳を奪うという犯人の目的こそ阻止できたものの、その過程で犠牲になったものが重すぎる。
話を聞きながら脳裏に浮かぶのは、キリハとルカと―――もう一人。
「もう一つ聞かせてくれ。その事件現場に駆けつけたのは誰だ?」
これにもすぐに答えが帰ってくる。
「………っ」
とある名前が鼓膜をすり抜けていった瞬間、勝手に手が震えた。
「分かった。これだけ聞ければ、下手にキリハを刺激せずに済むだろう。もう遅いから、お前も恋人を頼ってゆっくりと休むがいい。傷を負っているのは、お前も同じなはずだ。」
そう告げて電話を切ると同時に、メッセージ画面を展開。
憎たらしいあいつに、〝こんな時くらい、恋人を存分に甘やかしてやれ〟と送っておく。
「……やはり、あいつも見ていたか。」
携帯電話を下ろして溜め息をついた瞬間、そんな一言が零れ落ちていた。
彼が現場にいないわけがないとは思っていたが、悪い予感はことごとく的中するものだ。
あの事件の一部始終を強制的に見せられたとは、最悪という言葉ですら足りないほどの事態ではないか。
十中八九、今は正気でいられる状況じゃないだろう。
「だが……これはある意味、絶好の機会だな。」
ふむ、と思案。
そう。
今の状況は最悪ではあるが、自分にとっては最高でもある。
これで、無理を通して彼を懐に抱え込んだ目論見みの一つが達成できるかもしれないからだ。
「さて、動くのは早いに越したことはないな。奴がまた核シェルターにでも引っ込む前に、光の中に引きずり出してやらなくては。」
自分は、どんな状況でもチャンスは
傷に塩を塗り込んででも、大量の血を流させてでも、ひびの入った仮面を取り去ってやる。
そう心に決め、スケジュール調整に入ることにした。
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