第1章 見え隠れする白い影
2つの悩み事
『人間は嫌いだけど……キリハとエリクとルカのことは好きだよ。バイバイ。』
今でもあの言葉が、胸の奥深くに突き刺さっている……
「………」
深夜も近い、宮殿のベランダスペース。
テラスとして常時解放されているそこで、キリハは柵の上に両腕を組んで、空を見上げていた。
シアノとの別れから、あっという間に数ヶ月が過ぎた。
変えたくても変えられなかった、小さな少年の心。
あの出来事は、自分の心に
いい加減に切り替えろと言われればそれまで。
ルカにも、何もできない状況に面した時に自分を許せるようになれと言われた。
分かっている。
だけど、手が届かなかったという初めての経験は、周りからのアドバイスで消化できるほど、簡単なものじゃなかった。
だって、人間のことが嫌いだと言ったシアノは、同じ口で自分たちのことが好きだとも言ったのだ。
それは、シアノが認めてくれた自分たちになら、まだ彼を変えられる可能性が残されているということじゃないの?
そう思ったら割り切ることなんてできなくて、今の今まで引きずることになってしまった。
「うーん……俺って、案外わがままだったのかなぁ?」
今まで何かに執着したことがなかったので、いまいち分からない。
でも、宮殿に来てからの自分は、何かにすんなりと納得したことがあっただろうか。
思い返してみると、事あるごとに誰かしらとぶつかっている気がする。
「なんか、急に不安になってきた……」
今までの自分の行いは、周囲にどう見られているのだろう。
気にするなと笑ってくれる皆は、その裏でかなりの迷惑を被っているのではないか。
その結果、言うに言えない不満を抱えていないだろうか。
「……よし。今度から、色んな人とご飯に行ってストレスを発散させてあげよう。」
ぐっと両手を握り、一つ決意。
それで
もう慣れた宮殿内を進み、自分の部屋へと向かう。
ドアに取りつけられた郵便受けから中身を取り出し、それを確認しながらリビングへ。
「あ…」
そこで、キリハの手が止まった。
ゆっくりと歩みを止め、テーブルの上に書類などを置く。
その中から、目についたものを一つだけ取り上げた。
それは、淡い紫色をした封筒。
宛先も差出人も書いていない。
でもこれは―――明らかに、自分に宛てられた手紙だ。
胸に微かな不快感を覚えつつ、封筒を開く。
「またか……」
中身を確認して、自分の顔が歪むのを感じた。
そこに収められていたのは、自分を隠し撮りしたと思われる写真の数々だった。
シアノのことと同じくらい、最近の自分を悩ませることである。
〝ひとまずは、ご挨拶まで。〟
そのメッセージを受け取って以降、こうして定期的に差出人不明の手紙が送られてくるようになったのだ。
とはいえ、送られてくるのは写真だけ。
あれ以降、メッセージというメッセージもない。
ちょっと気味が悪いくらいで実害はないので、今まで放置するだけだったのだが……さすがに、三ヶ月以上も続くと頭が痛くなってくる。
「うーん……そろそろ、誰かに相談した方がいいかなぁ?」
そうは言っても、このことってどう話せばいいんだろう?
まあ、口で説明するより実物を見てもらえばいいのか。
そんなことを考えながら、この日もその手紙を、適当に見繕ったお菓子の箱に放り込むのだった。
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