ようやくのカミングアウト



「―――はあぁ!? 本当の名前はアルシードで、ジョーってのは十五年前に死んだお兄さんの名前ーっ!?」





 レクト討伐の後始末もようやく落ち着いた、とある日の会議室。

 そこに、ディアラントの絶叫が響いた。



 ―――さて、もういい頃合いだろう。



 会議が始まってすぐにミゲルがそう告げ、この日の議題は一瞬でジョーの過去に塗り替えられた。



「………」



 ようやく白状したジョーはこの顔。

 むすっと頬を膨らませて明後日の方向に目をやる彼は、それはもう不服そうだ。



「え…? じゃあ、年齢とか誕生日も全部…?」

「そうだよ。僕自身は死んだことにして、くそ兄貴として生きてきたんだから、当たり前でしょ。」



 にじり寄ってくるディアラントをうざったしそうに押しのけ、ジョーはかばんから取り出した雑誌を放り投げる。



「アルシード・レインがどんな人物だったか知りたいなら、その雑誌の特集でも読めばいいさ。全部消し去ったはずだったのに、たぬき親父が後生大事に隠してやがった。ついでに、僕が死んだことになった事故の切り抜きも挟まれてる。」



「………」



 衝撃の事実に、ドラゴン殲滅部隊の面々は大口を開けて思考停止。

 サーシャやカレンも、驚きを隠せずにいる。



「え、じゃあ……」



 そこで口を開けるのは、空気を読まない天才であるディアラントのみ。



「―――今、本当はいくつ?」



 いの一番に訊ねられたことに、ジョーは唖然。



「……気になるの、そこ?」

「うん!!」



 ジョーが呆れた様子でそう返すと、ディアラントは大真面目に頷いた。

 そんなの雑誌を読めば分かるのだが、そちらには興味なしということらしい。



「………」



 ジョーはしばらく無言。

 自分の口からは言いたくないのか、少し赤らんだ顔にはかなりの葛藤かっとうが表れている。



「……………二十四。」



 無駄にきらめいたディアラントの圧に負けて、ジョーがようやく答えを述べる。

 そして、それを聞いたディアラントの顔に大きな衝撃が走った。



「オレより年下ーっ!?」

「違うもーん。もう少しで誕生日だから、同い年だもーん。」



「いや、今三月でしょ? オレ、五月生まれでしょ? ほぼ一個下じゃん!!」

「ギリで同学年ですー。」



「ってか、三つもサバ読んでて普通に高校も大学も卒業したわけ!? とんだ化けもん!!」

「天才ですみませんねー。正直、飛び級も余裕でできましたよーだ。」



 一度言ってしまえば気も楽なのか、ジョーは一瞬で開き直りモード。

 そんな親友の隣で、ミゲルは何とも言えない表情で額を押さえている。



 知ってはいたけれど、本人の口から改めて聞かされると複雑だ、と。

 重たげな溜め息がそう語っているように見えた。



「んー、そっかー…。でも、なーんか納得!!」



 ジョーをじっと見つめていたディアラントが、ふいにぽんと手を打つ。



「正直アルって、ミゲル先輩と比べると子供っぽくて、年上に思えなかったんだよねー。ね方とか意地の張り方が、弟とそっくりで!!」



 あっけらかんと笑うディアラント。

 次の瞬間、ジョーの両目が恐ろしいくらい冷たく据わった。



「ぐえっ!?」



 突然ジョーに両手で首を絞められ、ディアラントが濁った悲鳴をあげる。



「本当にさぁ……一回でいいから、本気で叩きのめしたかったんだよねぇ…。このまま死んどく?」



「うぐ……アルったら、割とガチ…っ」



「馬鹿と天才は紙一重って言うけど、君は完全に馬鹿の部類だよ。君のせいで、僕がこれまでどんだけ苦労してきたと…っ」



「やだこの子! 同い年って知られた瞬間、暴力的になっちゃったわ!!」



「ふーん…?」



「アル! 早まらないでぇ!!」



「そうだぞ!! そんな奴を抹殺するお前の手の方がもったいないから、ここはこらえろ!!」



「ミゲル先輩、ひどい!!」



 大慌てでジョーを止めるキリハとミゲル。

 かなりの力で首を絞められているのに、冗談口調をやめないディアラント。

 雑誌を読むのに夢中になり始める他の人々。



 今朝の会議はなんとも賑やかで、そして平和なものだった。


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