最高な子供たち
予想を遥かに超える光景に、キリハは何も言えなくなってしまう。
食堂には子供たちや職員の皆、それに加えて近所の人々までが大集合していたのだ。
皆の手にはクラッカーが持たれていて、さっきの爆発音はこれだったのだと知る。
「………」
この感覚を、一体どう表現すればいいのだろう。
胸の中に、むずがゆさを伴った温かさがあふれてくるようだ。
たった三ヶ月だ。
それはこれまで生きてきた十七年や、レイミヤで過ごした七年と比べれば些細な時間。
それなのに、今ここに立つ自分はこの三ヶ月の時を、何よりも長かったように感じている。
やはり、ここは自分にとって特別な場所なのだと実感する。
宮殿にも中央区にもない特別な何かが、このレイミヤにはあるのだ。
自分はこの場所が大好きで、この場所は自分を温かく受け入れてくれる。
それが、無性に嬉しくてたまらなかった。
皆はこちらの言葉を待つように口を引き結んでいる。
つぶらな瞳に期待と不安をたたえる子供たちの一人一人と目を合わせ、キリハはふわりと幸せそうに笑った。
「ただいま。」
こんなありふれた四文字に、こんなにも複雑で多彩な感情が込められるなんて知らなかった。
キリハが放った、そんな日常的な一言。
それで、子供たちを抑えていた糸が一気に切れた。
「キリハ兄ちゃーん!!」
「のわああっ!?」
押し寄せてきた子供たちの津波に、キリハはなす
我先にと群がる子供たちの中には、興奮のあまり泣き出してしまう子供も。
「ほらほら泣かないで。急にいなくなってごめんね。」
子供たちを懸命になだめるキリハは、困りながらも幸せそうである。
「はい、みんな。」
事態の収拾をつけるようにメイが手を叩く。
するといつもの流れで、全員の目がメイに集まった。
「このままじゃ、キリハもお客様も困っちゃうでしょう？」
そのメイの言葉で、子供たちと他の人々の視線がルカたちを捉える。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、誰？」
「俺のお友達だよ。」
不思議そうな子供たちに、キリハは端的にルカたちをそう紹介した。
ルカとしては不服だろうが、子供に複雑な人間関係を分かれと言う方が無理難題だ。
我慢してもらおう。
「キリハ兄ちゃんのおともだち？」
「そう。悪い人たちじゃないよ。」
「あ…」
そこで、ルカたちを見ていた子供の一人が何かに気づいた。
「キリハ兄ちゃんとおんなじだ。」
「うん。こっちのおめめだけ赤いの。」
「!!」
その言葉が放たれた瞬間、明らかにルカたちの表情が強張った。
これはもう、これまでの経験からくる条件反射なのだろう。
ルカたちは無意識に身構えて、次の言葉を待っている。
彼らがわずかな恐怖を抱いていることは分かっていたが、キリハはあえて何もしなかったし、何も言わなかった。
この後にどんな展開が待ち受けているかなど、火を見るより明らかだったからだ。
「いいなぁ。キリハ兄ちゃんとおそろいなの。」
ルカたちをじっと見つめていた少女が、
「ええ…。同じがいいって言っても、そんなにいいもんじゃないんだけど。」
「だって、きれいなんだもん。」
「両方同じ色の目って、なんか普通でつまんないよ。」
キリハと子供たちの間で飛び交う言葉の内容に、ルカたちは驚いて絶句していた。
それ見たことか。
いい意味でルカたちの予想を裏切ることができ、キリハはこっそりとほくそ笑んだ。
ここをどこだと思っているのだ。
今まで自分を支えてきてくれた人々の心の広さをなめてもらっては困る。
じわじわと子供たちに囲まれていくルカたちは、初めての状況にひどく
彼らのこんな顔を見ることができたなら、それだけで彼らをここに連れてきた意味が大きなものになる。
「みんな最高！ ありがとう。」
キリハは笑い、子供たちを思い切り抱き締めた。
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