もう一人の立役者
「あのー、お二人さん?」
お熱い展開から十秒ほど経過したところで、切り込み隊長を買って出たのはジョーだった。
「仲良しなのは結構なんだけどー……僕は、いつまで目隠ししてればいい?」
「!!」
それで自分たちの行動を自覚したキリハとサーシャは、大慌てで距離を取る。
キリハに白衣の
「なんだかなぁ…。あっちでもこっちでも、やたらと愛が実っておりますこと。ミゲル、どうするー? この波に乗じて、ミゲルも愛を進展させちゃう?」
からかうような瑠璃色。
ミゲルが日々ララと
「………」
一方、キリハの代わりに矢面に立たされたミゲルは、ほんのりと顔を赤らめるだけで何も言わない。
そんな親友の様子に、訊ねたジョーの方が目をしばたたかせることになった。
「あら…。冗談だったのに、割とガチで考えてたんだ……」
「う、うるせー!!」
図星を突かれて、ミゲルが今度こそ真っ赤になる。
そこには触れずに彼から目を逸らしたジョーは、また表情を引き締めた。
「じゃあ、話を本筋に戻すけど……この件にはね、もう一人の立役者がいるんだよ。」
「もう一人…?」
キリハの呟きに、ジョーはこくりと頷く。
他の人々も、続きを待つように静かになった。
「―――ルカ君だよ。」
もったいぶらずに、ジョーは答えを述べる。
それに驚かなかった人間はいなかった。
「僕がロイリアの治療薬を作れたのは、今までのロイリアの生体データ、ノア様から提供された研究資料に加えて……ルカ君が定期的に持ち込んでいた、レクトの血液サンプルがあったからなんだ。」
どういうことか、と。
全員の視線に促されて、ジョーは先を続ける。
「ルカ君はね、自分を実験台にしてレクトの能力を探ってたんだ。その結果、レクトの能力にある二つの穴に気付いた。」
「二つの穴…?」
「そう。レクトは血を仕込んだ人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚には、本人に気付かれることなくリンクできるけど……唯一、触覚だけにはリンクできないんだ。同意の有無はどうであれ、人間の肉体を乗っ取らない限りはね。」
それを聞くキリハは、その穴がどういう意味に繋がるのか分からない様子。
ジョーはそれに構わず、解説を続行する。
「そしてもう一つ。肉体を乗っ取らない状態での感覚共有は、あくまでも肉体の持ち主の認識範囲に制限される。この二つを組み合わせれば……自分がきちんと意識を保っている時に、自分の視野外で手を動かす分には、その行為をレクトに感知されないと推測できるわけだ。」
そこまで話したジョーの双眸に、鋭い光が宿る。
「ルカ君が僕に交渉を持ちかけていた目的は、それを建前にして僕にレクトの血を届けること。だから僕に血を渡す時、ルカ君は絶対に僕の方を―――自分の手元を見なかった。視覚情報を遮断してしまえば、仮に聴覚や嗅覚から異変を悟られたとしても、いくらでも言い
ジョーと張るほどに計算高い、ルカの行動。
それに皆が
「ルカは……どうして、そんなことを…?」
ジョーをレクト側に引き込むために、交渉を重ねていたというルカ。
そんなルカがジョーにレクトの血を渡していたのは、ジョーにも血を飲んでほしかったからなのかもしれない。
すぐにその推測には至ったものの、どうしても納得がいかない。
もしそうならば、ジョーがこんなに穏やかな表情をしているはずがないと思う。
「それは……本人から直接聞いてごらん。」
そう言ったジョーが差し出したのは、自身の携帯電話。
液晶画面を覗くと、一画面には収まりきらない量のメッセージが映し出されていた。
差出人は、もちろんルカ。
送信日は、自分が彼をレクトに会わせてから一週間も経っていない頃だった。
期待半分、恐怖半分。
そんな心地で携帯電話を受け取った。
そして、当時のルカの想いをなぞる―――
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