再びの予測外
次のドラゴンの出現予兆が観測されたのは、先の討伐からわずか三日後。
ノアが帰国する前日のことだった。
出現地は、これまでの予測を大きく西南に外れた、セイラン山麓のアルデア湖。
「また……」
怒号が飛び交う無線を聞きながら、フールは深刻そうに呟く。
次にドラゴンが出現するだろうと予測していた時期より、何倍も早い今回の出現。
出現場所も、予測からは大きく外れている。
状況は、最悪としか言いようがなかった。
当然ながら、先遣隊の事前派遣はされていない。
今はディアラントたちが、現場へと急行しているところだ。
ドラゴン出現の予兆が観測されたアルデア湖の十キロ先には、大きな街がある。
例外に例外が重なった今回のドラゴン出現の一報に、街はかなり混乱した状況だという。
ドラゴン出現まで、およそ一時間。
一刻も早く現場に到着しないとまずいだろう。
本当は、今はまだあんな場所にドラゴンが出現するはずもないのに……
「………」
やはり、これは彼が―――
「ははは! やはり想定外というのは、何事にもついてくるものだな。この慌ただしさ、嫌いじゃないぞ。」
暗い方向に落ちかけた思考は、突然飛び込んできた、やたらと明るい声に引き止められてしまった。
「……何故あなたが、無線を持っているのですか? それ、ディアラントさんのサブ端末ですよね。」
通話の発信源を示すモニターを睨み、ターニャが怒りを滲ませた声音で訊ねる。
この間のドラゴン討伐にノアが同行しただけでも特例中の特例だというのに、今度は何をやらかすつもりだ。
そんなターニャの心の声が聞こえてきそうだったが、ノアはこれっぽっちも気にしていないようだった。
「そうカッカするな。私も考えがあってのことだ。」
次の瞬間、ノアの声がすっと低くなる。
「この間話した例の件だがな、ちょうど
痛いところを突いてくる。
黙ったターニャに、ノアはこれ見よがしにと言葉を重ねる。
「すでに現場のディアラントたちとは、合意を取ってある。まあ、私が
一方的に告げ、ノアは無線を切ってしまった。
「…………こっちに何かを要求することはない、か。金品じゃどうにもならないものをさらっていこうとしてるくせに、よく言うね。」
ノアの物言いに苦笑を呈するフール。
(でも、そのおかげで……―――キリハには、早く結論を出してもらえそうだ。)
そんなフールの本音は、空気を震わせることなく、彼の内だけに響いて消える。
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