作戦変更

 ルカが去ってから、しばらく。



「父さん……ルカは、なんて言ってたの…?」



 急に体を奪われて意識もなくしていたシアノは、レクトにおそるおそる訊ねた。



 自分に体を戻した父は、あれから何も語らない。

 じっくりと考えにふけっているようだ。



 最初は黙って待っていようと思ったけど、その沈黙があまりにも長すぎて、待つのも限界になってしまった。





「―――作戦変更、だな。」





 端的にそう告げたレクトは、くすりと笑う。



 やはり、自分の見立ては間違っていなかった。

 ルカは、ジョーと同じくらい危険な人物だ。



 頭の回転が早い上に、直情的かと思いきや、やたらと交渉慣れしている。



 こちらはルカの質問に明確な答えを与えなかったが、彼は自分が望む答えを全て持って帰ったことだろう。



 話の端々に散らばるいちを確実に掴み取り、そこから十を悟って。



 さらに、建前と真実を交えて話を展開するのが非常に上手い。



 こちらに協力する気が本当にあるのかはまだ疑わしいところだが、彼が周りの人間を嫌い、どんな形であれ仕返しをしたいと思っているのは本当だ。





 ならば―――やわらぎはしても消えはしないその敵意こそ、彼の牙城を崩す一点。





 上手く操れば、ドミノ倒しのように周りの人間も総崩しにできる。

 そしてその下準備は、キリハをおとしめるための準備で整ってしまっているときた。



「シアノ、安心しなさい。ルカは、確実に私たちの仲間になってくれるよ。」

「………っ!! ほ、本当!?」



 パッと輝くシアノの表情。



 ルカが仲間になってくれること。

 それは今のシアノにとって、何よりの希望であろう。



 しかしその希望を得るためには、とある代償を支払わなければならない。



「ただ、そのためには―――エリクには、確実に死んでもらわなければならなくなった。」

「―――っ!!」



 一瞬で、幼い顔から輝きが消える。



 とはいえ、シアノも薄々はこの結末を悟っていたのだろう。

 ルカの時のように、嫌だと泣き叫ぶことはしなかった。



「すまないね。ルカかエリクか……どちらかしか生かせないとなったら、ルカの方がいいだろう?」



 だめ押しにと、幼い心に重たい鎖をくくりつける。

 その結果。



「……うん。」



 しゅんと肩を落としながらも、シアノはただそう頷くだけだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る