第3章 カリスマ王の猛進

キリハ、真っ白。

「ちょっと―――っ!?」



 一番に悲鳴をあげたのはディアラントだった。

 ディアラントは反射的にキリハとノアの間に割って入り、キリハをかばうように両手を広げる。



「な、ななななななに言ってんですか!?」

「私は至って真面目だぞ。」



 ディアラントの叫びに、ノアは全く動じなかった。



「真面目な思考回路で、こんなとんでもないことになってたまるか! ってか、完全にオレたちのことは諦める雰囲気だったじゃん!!」



「何を言う。お前のことは諦めてやっても仕方ないと思ったが、キリハのことを諦めるつもりなんて一切なかったぞ。」



「だからって、なんでこんなことになるの!?」



「攻め方を変えただけだ。」



 ノアは悪びれもなく告げる。



「実は最近、周りがそろそろ身を固めろとうるさくてな。キリハを伴侶として連れ帰れば、国としては美味おいしいし、補佐官どもの小言はなくなるし、一石二鳥ではないかと思ったのだ。」



「そんなお手軽理論で、生涯の相手なんて決めていいわけないでしょーが!!」



「写真だけを見て、ろくに話したこともない奴と結婚するよりは何倍もいいではないか! それに私は、キリハのことを可愛くて仕方ないと思っている。キスしてみてもちっとも嫌じゃなかったし、ちゃんと夫として愛せると確信してのプロポーズだ。」



「それを確かめるためだけに、いきなりキスしたのかーっ!?」



 突っ込むことも限界だ。

 誰か、この暴走王を止めてくれ。



 混乱したようにまくし立てるディアラントだったが、彼の怒りと焦りはちっともノアに伝わっていない。



「もちろん、それだけではないぞ。異性として意識させるには、この方が手っ取り早いだろう。」

「それは普通、男が女にするやつでしょ!? 何こんなとこで、雄々しさ出してるんですか!?」



「そうは言ってもだな。見たところキリハは、遠回しに口説いたところで全然気付かないタイプだろう?」

「そうですけどー……」



 指摘が正しすぎて、返す言葉もない。

 盛大に溜め息をつき、そこでディアラントはハッとして首を振った。



「いやいやいや! 丸め込まれませんよ!? あなたはいいとしても、キリハの気持ちはどうなるんですか!?」



「キリハも私を好いてくれれば、問題なかろう? さっきのは、キリハを私のものにするという意味のキスでもある。」



「だから、考え方が男なんですって!! ああもう! キリハ! お前からも何か言ってやれ!! 場合によっては、殴っても許す!!」



「………………」



「……キリハ?」



 そういえばさっきから、後ろがやたらと静かだ。



 おそるおそる後ろを振り向くと、キリハはノアに唇を奪われた体勢のまま、茫然と立ち尽くしていた。



「キリハー? おーい。」



 肩のフールが、キリハの顔の前で腕を振ってみる。



 反応は、ない。



「あー……完全に放心しちゃってるね、これ。」

「キリハ、しっかりしろー!!」



 ディアラントが慌てて肩を揺さぶるが、キリハの体は意思のない人形のように揺れるだけ。

 それを見ていたノアが、何かに思い至ったように瞳を大きくした。



「なんだ。もしかして、ファーストキスだったか?」

「こんなににぶい子が、どうして経験済みだと思えるの!?」



 確信犯だったら確実に殴っていたが、全く考えていなかったと言われれば、それはそれで腹が立つ。

 あまりにもキリハが可哀想ではないか。



 ちょっとは罪悪感でも持ってほしいと思うディアラントだったが、一方のノアはそれを聞くと愉快そうに笑った。



「なるほど。掴みはバッチリというわけだな。案ずるな。その分の責任は、ちゃんと取ってやる。幸せにしてやろう。」



「ああもう! あなたって人は!! キリハ! とりあえず戻ってこい! キリハーっ!!」



「ははは! かわゆい反応ではないか! ますます気に入った!!」



 ノアは豪快に笑う。





「いいだろう。ディアラントのことは、この際諦めよう。だが、キリハだけはなんとしてでもルルアに連れて帰る。」





 声高らかなノアの宣言は、当然ながらキリハには届いていなかった。


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