翌朝の珍事

 嵐のような出来事から、一夜明けて。



「………」



 ルカ、カレン、サーシャの三人は、当惑して互いの顔を見合わせていた。



「おい、あの馬鹿に何があったんだ?」



 いつまでも無言というのも気まずくなって、ルカがとりあえず口を開く。



「あたしたちに分かるわけないじゃない。そういうルカこそ、心当たりないわけ?」

「あったら、お前らに訊くわけないだろ。」

「そうよね……」



 カレンが呟き、三人の視線はある一点に集まる。



 そこには、目の前で温かな湯気を立てるカップを見つめながら、ぼんやりとしているキリハの姿があった。



 先日突然宮殿を訪れたルルアの大統領は、一週間ほど宮殿に滞在することになったらしい。



 それを受けて、ディアラントたちドラゴン殲滅部隊は宮殿本部の安全管理を一任することになり、竜騎士隊には緊急時を除いて、しばらくの休暇を言い渡された。



 とはいえこれといって日常が変わるわけでもなく、ルカたちはいつもそうするように、宮殿本部のカフェテリアに集まった。



 そうして目の当たりにしたのが、この状況である。



 他の皆より早く席についていたキリハは、終始こんな感じだ。

 かろうじて挨拶には応えてくれたが、その他は何を言ってもうわの空で会話にもならない。



 三人が困り果てていると、ふとカフェテリアの自動ドアが開く音がした。



「あ、お師匠さん。」



 カレンの呟きに、ルカとサーシャもそちらへと視線を向ける。

 小走りで彼らへ近寄ったディアラントはキリハを見ると、途端に眉間にしわを寄せた。



「あー…」



 重たげな吐息が、その口から零れる。

 次に彼はルカたち三人をぐるりと見渡し、とある一点に狙いを定めた。





「あの……カレンちゃん。ちょっと、時間もらえる?」

「え、あたし?」





 呼ばれたカレンは驚いて、自分の顔を指差した。



 それにディアラントが何度も頷くと、カレンは怪訝けげんそうに首をひねりながらも、ディアラントの傍へと歩みを進めた。



「ごめん、ルカ君。ちょっとだけ、カレンちゃんを貸してね。」

「なんでオレに、いちいち断りを入れる必要がある。」



 すかさず突っ込むルカ。



「いやホント、ちょっとだけだから。」

「だからなんで……」



「別に、やましいこととか何もないから。」

「だから!!」



 目くじらを立てるルカに何度も謝りながら、ディアラントはカレンを連れてカフェテリアを出ていってしまった。


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