エピローグ

破滅をもたらす囁き

「おや、もう眠ったか。」



 あっという間に呼吸が深くなったシアノを見下ろし、レクトは微かに目を細めた。



 幸せそうな顔をして眠るものだ。





 その幸せが―――盲信の上に立つ虚像だとは知らずに。





「ふふ、愛しているよ。愚かしいほどに純真な、愛しい私のお人形さん。」



 この子は一度こちらを疑いかけながらも、結局は人間を信じきれずにここへ戻ってきた。

 そして今は、必死にこちらが正しいのだと信じようとしている。



 いや。

 そう思い込もうとしている、と表現した方が正しいだろうか。



 それも致し方あるまい。

 この子の居場所は、ここにしかないのだ。

 仮に他に居場所があるのだとしても、この子はそれにすがることができないだろう。



 人間は醜いと。

 今はよくとも、いつかは裏切る生き物なのだと。

 そして、いずれは滅びていなくなる存在なのだと。



 シアノを拾ったあの日から、毎日のようにそう言い聞かせてきたのだから。



 そんなシアノに、ものの数日でここまでの影響を与えるとは……



 今の《焔乱舞》のあるじは、本当に厄介だ。

 ユアンと同じ、もしかするとそれ以上かもしれない。



「ふふふ……」



 レクトはひっそりと笑う。



 彼は、ユアンとリュドルフリアにとっての希望。

 だがそれと同時に、彼らにとっての脅威にもなりうる危うさも秘めている。



 シアノの目を通してキリハを見つめて、それを確信した。

 ならばきっと、壊すのはそう難しいことではないだろう。



「私も、少し興味が湧いてきたよ。それに、シアノにああ言ってしまったしなぁ…。次は、私が直接動いてみるとしよう。」



 ―――さて、彼はどんな風に踊ってくれるだろうか。



 きっと彼は、あの日の彼女のように簡単に心を許すだろう。

 その先に待ち構える絶望を前に、彼はどんな選択を下すだろうか。



 彼女のように、自ら朽ちる道を選ぶか。

 はたまた、こちらが望む殺戮兵器となるか。



 別にどちらでも構わない。

 人間とドラゴンが共に歩む世界などという幻想を、完膚なきまでに潰せるのなら。





 そして彼らが、心の底から絶望して立ち直れなくなるのなら―――





「楽しみに待っているといい。ユアン、リュドルフリア。」



 呟き、レクトはシアノの横に首を横たえる。

 そして、静かに目を閉じた。





 きしんだ歯車が、耳ざわりな音を立てて動いていく―――





 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 【第6部】はこれで完結となります。

 ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。



 【第7部】あらすじ



 シアノとの別れから数ヶ月。

 キリハはとある悩みを抱えながら、未だにシアノへの未練を断ち切れずにいた。



 そんな折、ルカの元にエリクが倒れたとの一報が入る。

 慌てて病院に駆けつけたルカとキリハ。



 やたらと深刻そうなエリクから聞いたことは―――シアノを見た!?



 そしてそれから間を置かず、キリハもシアノの姿を見かけることに。

 小さな姿を思わず追いかけるキリハ。



 その先で見たものは―――……





 1つの出会いが、これまでの人物関係を大きく変える!!





 過去を巡って、キリハとフールが真っ向から対立!

 その裏で、ルカとジョーの間では取引成立!?



 さまざまな人物が揺れ動く中、これまで父の言うことを聞くだけだったシアノも、ささやかな変化を見せ始め―――



 第8部までノンストップで駆け抜ける、怒涛の1幕!



 どうぞ、第7部もよろしくお願いいたします!


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