突然の電話

 分かっていたはずだった。

 散々レクトにも言われていたし、自分だって、むしろかかってこいとさえ思っていた。



 今の時点で、十分に最悪なんだ。

 これ以上の最悪なんてないだろうと、そんな風に構えていた。





 だけど、実際にその時が来ると―――





「ん?」



 きっかけは、もう寝ようかと思っていたタイミングで震えた携帯電話だった。

 枕元に投げていたそれを取り上げて、下に向けていた画面をくるりとひっくり返す。



「ミゲルから…?」



 こんな時間にどうしたのだろう。



 実家の問題でごたついているという今、彼がわざわざ自分に連絡を寄越す理由なんてないと思うんだけど……



 ちょっとした違和感を抱きつつ、通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てる。





「どうも。はじめまして……と言うのは、少しおかしいかもしれませんね。」





 鼓膜を震わせた音の信号に、一瞬で眠気が吹き飛んだ。



 ミゲルじゃない。

 変声器を通した、耳ざわりな高い声。



「どうして……ミゲルの電話を…?」



 自分の口から、自分のものとは思えない声が出ていく。



 相手が誰なのか、なんて。

 今さら、そんなことは訊く必要もなかった。



「安心してください。危害は加えていません。ただ、大人しく眠っていただいているだけです。」

「本当に?」



「ええ。そもそも、彼が自分から飛び込んでこなければ、こんな風に利用するつもりはなかったんですけどね。」

「自分から…?」



「ええ。飛び込んでこられた以上、計画を早めるしかなかったのです。調査の手を回される前にね。」

「………」





「さて、そういうわけで―――次回の待ち合わせ場所を、変更いたしましょう。」





 ついにご対面というわけか。



 キリハは黙して、声の続きを待つ。



「とはいえ、あなたは呼び出しの連絡があるまで、お部屋でお待ちいただければ結構です。私の可愛い手足が、あなたを私の元までエスコートしてくれますので。」



「………」



「ご心配なさらずとも、お預かりしているお友達には今後も危害を加えませんよ。」



「分かった。それだけ守ってくれるなら、言うことに従うよ。」



 相手からミゲルの安全を保証させたところで、キリハはこくりと頷いた。





「それでは―――三日後、お会いしましょう。」





 電話が、プツリと切れる―――……




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