どうして……

 そこからの二日は……正直、あまり記憶がない。



 ミゲルはずっと休んでいるが、誰かが彼の携帯電話を使って上手くごまかしているようだ。

 ディアラントやジョーも他の皆も、複雑な事情を心配しつつも彼を捜そうとしない。



 自分だけが知っている真実。

 言えるわけがなかった。



 ミゲルは今まさに、犯人の手中にいる。

 自分が皆に事情を話してミゲルを見つけるよりも、犯人がミゲルに手を下す方が圧倒的に早い。



 ドクドクと。

 鼓動が重く響いてやまない。

 自分の周りだけ空気が異常に薄くなったようで、常に息苦しい。



 時おり叫び出したい衝動に駆られるけれど、喉は凍りついたように動かない。

 それでも誰かがミゲルの名を口にすると、背中を冷や汗が伝っていって。



 気が狂いそうになる二日を乗り越えて、三日目。

 もうすぐ昼も過ぎるというのに、未だに連絡はこない。



「珍しいな。お前が休みなのに部屋を出ていないとは。」



 ふいに響くレクトの声。

 それにキリハは、眉を下げて微笑んだ。



「うん。今日はちょっと、別の用事があってね。その連絡待ち。」

「別の…?」



 不思議そうなレクトの声。



 言外に〝どうかしたのか?〟と訊かれているのは分かったけれど、盗聴器を仕掛けられているかもしれないこの部屋では、彼にも何も言うことができなかった。



 代わりに言うことがあるとすれば―――



「レクト……今まで、ありがとね。」



 これだけだった。



「うむ…? 急にどうした?」

「えへへ。なんとなく、言いたくなって。」



「なんだ、それは。死にに行くわけでもあるまいに。」

「それはそうなんだけどさ、別にいいじゃん。」



 空元気を振り絞り、明るく笑い飛ばす。



 今日で、長かったこの件にも決着がつくだろう。

 その結果生きて帰れるのかは……正直なところ、自信がない。



 自分一人ならなんてこともないけど、今はミゲルが人質に取られている状況だ。

 下手に抵抗すれば彼を危険にさらすし、自分にはもう、抵抗しようと思える気力もない。



 メイアとレイが呼び出された時で、あんなにも怖かったのだ。



 ミゲルが人質に取られたと分かった瞬間、叩きのめしてやるというささやかな対抗心も、ポッキリと折れてしまったのだろう。



「―――っ!!」



 その時、携帯電話が大きく振動する。

 慌てて画面を見たが、そこに表示されていたのはミゲルの番号でも、知らない番号でもなかった。



 落胆半分、安堵半分といった複雑な心境で、とりあえず電話に出る。



「もしもし? ……うん……あー、ごめん。今日は用事があって、手が離せそうにないんだ。ご飯とかなら、また今度―――」



 手短に話を済ませようとしたキリハの手が、そこで小さく痙攣けいれんする。



「―――え…?」



 まるで、身も心もまっ逆さまに奈落へと落ちていくようだ。

 真っ暗になった世界に、穏やかな声による淡々とした指示だけが響く。





「どうして……―――あなたなんですか…?」





 震える声で呟いたキリハの表情が、くしゃりと歪んだ。




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