第3章 竜使いであること

それからの二人は……



「はああーっ!?」





 その朝は、二つの絶叫から始まった。

 毎朝恒例の会議の場にて、キリハとルカはターニャからとある命令を受けたのである。



「ちょっと! どういうこと、それ!」



 キリハは慌てて立ち上がる。

 ルカはキリハのように行動には示さないものの、不可解そうに歪んだ顔は命令が不服であると暗に告げていた。



 しかし、ターニャは二人の抗議を全く受けつける様子はない。



「これは、私とフールの決定です。あなた方二人は、命令が解除されるまで行動を共にしていただきます。基本的に常にです。」

「いやいやいや!」



 キリハはぶんぶんと首を振る。

 それに呆れた息をついたのはフールだ。



「あのねぇ…。しばらく様子を見てたけど、二人ともあれ以来、一切口をきかないじゃない。」



 そうなのである。

 キリハが宮殿に入ってから一ヶ月以上経つというのに、初日以降この二人は、会話するどころか目を合わせることすらしないのだ。



「だって、話したって喧嘩になるだけだし。」

「それ以前に、話す必要性もない。」



「口きかないくせに、こういう時は息ピッタリなのよね。」



 困ったように笑うカレンに、サーシャも同意して頷く。



「二人とも、今自分がどんな任務でここにいるのか分かっていますか?」

「うっ…。それは……」



 ターニャに指摘され、キリハは途端に言葉につまった。



「あなた方は、一つの部隊なのですよ? もしこの中から《焔乱舞》に認められる者が出た場合、あなた方四人がドラゴン討伐の中心となります。あなた方二人の問題で、いざという時にいらぬ犠牲でも出す気なのですか?」



 珍しく厳しい口調での、ターニャの叱責。

 それにルカは表情を変えなかったが、対するキリハは眉を下げて唇を噛んだ。



 いらぬ犠牲という単語が、ぐさりと胸に刺さったのだ。



 それぞれの表情で黙り込む二人に、フールがあの暢気のんきな声でその場を収めにかかる。



「なにも、休みの日まで一緒にいろとは言わないよ。ま、二人の行動次第では四六時中っておまけがつくかもしれないけど。」



「誰がこんな奴と!!」



 悲鳴じみた叫びが、寸分違わず完璧にハモる。

 途端にキリハとルカは目つきを険しくし、互いに睨み合った。



 収めるはずが逆効果になってしまい、フールの声に焦りがにじむ。



「ほ、ほら、落ち着いて。ね? ただ、お互いのことを知って歩み寄ろうってことなんだからさ。」



「嫌ってほど知ってる!」



 朝一の絶叫を含めて、本日三回目の二重奏である。



「お人好しの甘々人間。」

「非常識なひねくれ者。」



 互いにばっさりと言い合い、また二人の視線が剣呑にぶつかる。



「お人好しで悪かったね。」

「そっちこそ。久々にしゃべったと思ったら、随分な言い草じゃないか。言っとくが、オレは間違ったことを言ったつもりはないからな。」



「へえ~、それは奇遇。俺もだよ。」

「てめぇ…」

「なんだよ。」



 次第に温度を下げていく二人の声音。

 だがそれとは逆に、その後ろにはめらめらと熱い炎が燃え上がっていくように見えた。



「あっれ~、おかしいなぁ。丸く収まらないぞ?」



 空気を壊す天才であるフールも、さすがにお手上げ状態のようだ。



「あそこまで綺麗に仲違いできるんだから、もしかして逆に相性ピッタリなんじゃないの?」



 呆れを通り越して感動さえ覚えるキリハたちの会話に、カレンがそう言ってサーシャに同意を求める。



「確かにそうかも。」



 呟くサーシャの隣で、ターニャは頭痛をこらえるかのように額に手をやるのだった。


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