味方でありたい
キリハからの素朴な問いかけ。
それに、ターニャがハッとしたように顔を上げた。
そんなターニャの瞳を間近から見つめて、キリハは柔らかく微笑む。
よかった。
自分が感じていたことは、間違っていないようだ。
これが自分の決めた生き方だと、ターニャははっきり言っていた。
彼女が神官として働いている姿を見ていても、迷いや悔いがあったようには思えない。
ならば、自分は自信を持ってこう言える。
「俺はね、今の話を聞いてもターニャが悪いとは思わないし、ディア兄ちゃんが馬鹿だったとも思わないよ。ディア兄ちゃんもよく、ミゲルたちを巻き込んだなんて言ってたけど、ミゲルたちはディア兄ちゃんについていきたいから、ドラゴン部隊にいるんだって言ってた。多分、それと同じなんじゃないかな?」
「同じ……ですか?」
首を傾げるターニャに、キリハは一つ頷く。
「ミゲルたちがディア兄ちゃんについていきたいって思ってるのと同じで、ディア兄ちゃんもターニャについていきたいって思ってるんじゃないかってこと。ターニャが正しいって思って、ターニャの味方についていたいから、今も頑張ってるんじゃないのかな。ディア兄ちゃんって、嘘つくのがすっごい下手だもん。自分で決めたことじゃないと、あそこまでしぶとくならないよ。」
昔からディアラントの意志というのは、割と行動に出る方だ。
他人に命じられたことではとことん手を抜くが、逆に自分でやると決めたことには、とことん本気で向き合うのが彼。
そんなディアラントが、自ら隊長としての責務を全うしようとしているのだ。
それは紛れもなく、彼自身がそう望んでいるからに他ならない。
(そっか…。ディア兄ちゃんが好きなのって、ターニャのことだったんだ。)
ふと理解。
大会前日の夜。
ディアラントが好きだから味方するのだと言った自分に、彼はオレも同じだと言っていた。
ディアラントが総督部との勝負にここまでこだわって、宮殿に身を置き続けようとする理由。
それはきっと、ターニャの味方として彼女を支えたいから。
今でこそ大所帯となった部隊を守りたいという理由も大きいだろうけど、そもそも彼が隊長に就いた理由は、そこにあったのではないだろうか。
ターニャは自分がディアラントを巻き込んでしまったと言っているが、彼は〝やりたいことしか本気でやりません〟という主義の自由な師匠だ。
絶対に、自ら喜んで巻き込まれにいったに違いない。
そこに至る経緯はどうあれ、それだけは断言できる。
「それにね。」
キリハはターニャに向かって微笑みかけた。
「俺も結構自分の気持ちに正直なタイプだから、今のうちにちゃんと言っとくよ。俺はここにいていいかなって思えてるから、今もここにいるんだよ? ターニャが言ってることが正しいって思ったから、ターニャの指示に従ってきた。間違ってるって思った時は、すぐに意見を言ってきたと思うけど、違う?」
思い返せば、自分は何度ターニャに意見しただろう。
ターニャが神官であるということを考えると、なんとまあ生意気だったことか。
しかしターニャはそんな自分に、不快感を示したことは一度もなかった。
異を唱えた時には、真剣に耳を傾けてくれていた。
その結果、自分も周りも納得できる判断を下していたように思える。
だからこそ、これまで彼女についていくことができたのだ。
彼女がただ権力を振りかざすだけの人間だったなら、いくら《焔乱舞》に選ばれたといっても、ここまで素直に従ってはいなかったと思う。
「俺もディア兄ちゃんも、きっと他のみんなも、ターニャが正しいって思うから一緒にいるんだよ。ディア兄ちゃんは自分で隊長をやるって決めたんだろうし、俺は
ターニャが神官になったきっかけは、周りに押しつけられたことだったかもしれない。
でも今ターニャが神官を続けているのは、ディアラントを巻き込んでしまったことへの罪滅ぼしじゃない。
彼女自身がそう望んで、国のためを想って神官という責任を背負っている。
それが分かれば、自分には何も言うことはない。
「もう開き直っちゃったら? どうせ、本気になったディア兄ちゃんは誰にも止められないもん。だったら、すごい人を味方につけたんだって、ディア兄ちゃんを味方につけられた自分を褒めてもいいと思うよ。ミゲルたちが言ってたけど、ディア兄ちゃんへの一番の気遣いは、気遣わずに背中を預けることなんだって。だから、思い切りもたれかかっちゃえ。ディア兄ちゃんなら、きっと喜ぶよ。」
ターニャの両手を自分の両手で包み、キリハは満面の笑みで伝えられる言葉を紡ぐ。
「つらい時は、こうやって少しでも吐き出して。俺でよければ、いつでも話を聞くからさ。」
なんとなく、ディアラントがターニャの味方でありたいと思う理由が分かった気がする。
ディアラントは、悪意で孤立させられている中でも必死に正しくあろうとする彼女の、数少ない味方でありたかったのかもしれない。
お飾りの人形としてではなく、国を導く者として、神官の重責を自ら担う彼女を支えたいと思ったのだろう。
レイミヤにいた時も、竜使いである自分に
ターニャが竜使いだなんてこと、
そして、こうしてターニャの気持ちを聞いて、自分も思う。
ディアラントとターニャの味方でありたいと。
剣を教えてくれた師匠だとか、国を治める神官だとか、そんなものは関係ない。
ディアラントとターニャという個人を知って、自然とそう思った。
「………あなたって……」
大きく目を見開いていたターニャが、ふと口を開く。
「本当に、ディアと同じことを言うのですね。」
そう言って、ターニャは笑った。
涙は見せない泣き笑い。
それでもその笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも明るく弾けているように見えた。
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