第5章 動くそれぞれ
第三者からの意見
不安と恐怖が抜けきらないシアノをレクトと二人でなだめ、そのままの流れで泊まることに。
宮殿に帰ったのは、また朝方になってのことだった。
一度自室に戻ったものの、そこにいると昨晩のユアンとの衝突を思い出してしまって。
気を紛らわせるように共用バルコニーに出て、朝焼けの空をぼうっと眺めていた。
「お前って奴は、また悩み事でも抱えてんのか?」
そんな声がしたかと思うと、頬に冷たい何かがくっついてくる。
ちょっと驚いてそちらを見ると、二人分の缶コーヒーを持ったルカが、いつもの仏頂面でこちらを見下ろしていた。
「ルカ……どうしたの…?」
「どうしたも何も、逆にオレが話を聞きに来ないと思ってたのか? 昨日、隣であんな派手に大喧嘩しておいて。」
「あ…」
「ほらよ。」
缶コーヒーの一本をキリハに放り投げ、ルカはその隣に座る。
反射的に受け取ったキリハは、それをじっと見つめた。
甘めのカフェオレ。
いつもブラックしか飲まないルカなら、絶対に買わないはずだ。
特に言ったわけでもないのに、自分がよく飲むものを当然のように買ってこられるなんて。
相変わらず、配慮が細かく行き届いている彼だ。
「で? 一体何があったんだよ。フールもそうなら、お前があんなに怒鳴ることも滅多にないだろ。」
「えっと……」
「聞いてた感じ、シアノの父親代わりだっていうレクト絡みなんだろ?」
「……うん。」
具体的に聞こえていたなら、言い訳を探しても無意味だろう。
キリハは落ち込んだ表情で肩を落とした。
「実はね、レクトと友達になろうと思って……レクトの血を飲んだんだ。」
「はあ……まあ、お前ならやりかねないな。」
ルカは、大して驚かなかった。
レクトの血を飲んだことを肯定するつもりはなさそうだが、かといって頭ごなしに否定するつもりもないようだ。
目の前の出来事をそのままの形で受け止めるかのように、彼の表情は冷静さを保っている。
理解されないのなんて慣れっこだ、と。
ユアンにはそう
やっぱり、一人は寂しいものだから。
「それで? フールに言ったらまずいと思って黙ってたはずなのに、昨日になってばれたってところか?」
「うん。ようは、そういうこと……」
ズバズバと状況を言い当ててくるルカに頷き、キリハは息をついた。
「最初はなんとか説得しようと思ったんだけど、フールがレクトにひどいことばっかり言うから、頭にきちゃって……」
「その結果、お前は部屋を飛び出して、実質喧嘩別れになったと。」
「うん…」
キリハは、ぎゅっと缶コーヒーを握り締める。
「そんなに、いけないことかな…? 仲良くなれる方法があるなら仲良くなりたいって、俺はそう思うんだけど……」
「さあな。」
ルカは最初、そんな
「それは仲良くする相手や状況、それを見聞きした奴がどう受け取るかによるだろう。そしてお前とレクトの場合―――ユアンとしては、それがどうしても許せなかったってだけだ。」
「―――っ!?」
しれっと言われたことに驚いて、キリハは慌てた様子でルカを見る。
ルカはやはり、冷静なままだった。
「それも聞こえてたよ。」
「信じるの…?」
「逆に、否定できる要素があるか?」
ルカの返答はそれである。
「自分がリュドルフリアと血を交わしたせいでこうなったっていう負い目を感じてるなら、お前がレティシアの血を飲んだと知ってあんなに取り乱しても、おかしくないわな。他にも、あいつの色んな言動に筋が通る。」
さすがはルカだ。
的確な状況判断で、想定外の事実もきちんと処理できるなんて。
「そっか……」
この状況を共に理解してくれる存在が嬉しくて、無意識のうちに気が抜ける。
しかし、ルカの発言はこれで終わらなかった。
「で、お前が言ってたとおりで、レクトがドラゴン大戦の原因なら、オレはユアンの態度が正しいと思うぞ。」
「………っ」
安堵は一瞬で消え失せる。
そんな。
ルカまでユアンと同じように、レクトを責めるというのか。
キリハの気持ちはひしひしと伝わっているのか、ルカはやれやれと、
「んな泣きそうな顔をするなよ。第三者の視点から見れば、どう考えたってレクトに肩入れする理由が見つからねぇってのが現実だ。」
「そんな…っ。でも、レクトは迷ってるって言ってたんだ! 三百年前から変わるきっかけを掴んでるんだよ!?」
「だとしても、過去にやらかした過ちが消えるわけじゃない。」
「それは……そうだけど…っ」
これが己の行いの結果だと。
昨日、レクトもそう言っていた。
確かに、過去の過ちは消えない。
それ故の処遇を受け止めなければいけないことも分かっている。
だけどそれだけでは、根本的な問題は何も解決しないじゃないか。
「でも、今そのきっかけを広げてあげないと……レクトは、いつまで経っても一人ぼっちだ! ここでレクトを変えてあげないと……いつかまた、ドラゴン大戦が起こっちゃうんじゃないの…?」
「!!」
ずっと胸の内にあった懸念をぶつけると、ルカが大きく目を見開いた。
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