その死を嘆く者
少しの間の触れ合い。
それを終えて、キリハとリュドルフリアは互いに身を離した。
「
「え…? そうなの?」
キリハは《焔乱舞》を見下ろし、きょとんと首を傾げる。
リュドルフリアは「うむ…」と
「なんとなくだが、今の焔には血に宿る
原因にピンとこないリュドルフリアは、自身の背中に寝そべっているユアンへ話を振る。
しかし、ユアンもユアンで肩をすくめながら両手を挙げた。
「さあ? まあ人間の世界では、長く使われた物には心が宿るなんて逸話もあるし、もしかしたらその
「ほう。それはまた興味深い話だな。もっと詳しく聞かせてくれ。」
「うん、あとでね。今はもっと、他に話すべき人たちがいっぱいいるでしょ?」
ユアンが正論を突き返すと、リュドルフリアはちょっと不満そうに口をへの字に曲げた。
こうして見ていると、確かにユアンが言ったとおり。
ここに存在しているのは神竜ではなくて、リュドルフリアという一体のドラゴンだけだ。
「お前も久しいな、レティシア。派手にやりおって……お前がそこまで血気盛んだとは知らなかったぞ。」
首を上げたリュドルフリアは、雪に体をこすりつけて血を落としているレティシアに声をかける。
「私だって、ここまで怒ったのは初めてなんですよ。自分でもびっくりしてるわ。まあこれで、うちの可愛い子たちに手を出されたことは水に流してあげるけど。」
「怪我は大丈夫なのか?」
「キリハとロイリアのおかげで、まずいレベルの怪我はしてないんで、しばらく寝てればどうにかなると思いますよ。」
「そうか。……我の願いを聞き届けてくれて、ありがとう。」
リュドルフリアがそう言った瞬間、レティシアの体がピクリと震える。
その後、彼女は視線を横に逸らした。
「……別に、あなたのお願いを聞き届けたわけじゃないですよ。そこにいる子が可愛くなっちゃった……ただ、それだけです。」
「ふふ……そうか。それでも我は、お前に感謝しているよ。めんどくさがりなくせに、世話を焼き始めたら止まらない性格は、そのままのようだな。」
「………」
笑みを含んだ声で言われて、レティシアはますます面白くないようだ。
最終的に黙り込んだレティシアへの言葉はそれで終わりにしておき、リュドルフリアはまた別の方に目を向けた。
「さて……」
そこで、リュドルフリアの声に少しの
「あ…」
リュドルフリアが見つめる先を見て、キリハも言葉を失った。
いつの間に近くに来ていたのだろう。
そこでは、ジョーに支えられたシアノがしゃくりあげていた。
「シアノ。怖くないから、こっちにおいで。」
できるだけ優しく呼びかけるキリハ。
それに応えてジョーが背中を押すと、シアノは一歩ずつゆっくりと近づいてきた。
「父が死んでしまって、悲しいか?」
「………」
リュドルフリアの問いに、シアノは答えない。
「……我が、憎いか?」
「………」
これにも、シアノは無言。
「……シアノ?」
シアノの前に膝をついたキリハが、そっとその肩に手を置く。
すると……
「……分かんないよぉ…っ」
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、シアノが口を開く。
「父さん……死んじゃった…っ。でも……父さん、ぼくのことが嫌いだった…っ。父さんが生きてても……どうせ、ぼくのことを好きになってくれない。ぼくに嫌なことをさせる…っ。エリクも殺しちゃう…っ。だったら……この方がよかったの…? でも……でも……ぼくは、父さんが大好きだった!! もう分かんない! 分かんないよぉ…っ!!」
ひどく混乱していることが伝わる、幼い嘆き。
たくさんの情報と感情が混ざり合って、自分が何を感じているのかも分からないのだろう。
それでも、この子が父の死を悲しんでいることだけは確かで……
「そうだね、分かんないね…。今は分かんなくていいよ。今は……たくさん泣こうね。」
シアノを強く抱き締めて、そう言ってやる他になかった。
「この子は強い子だよ。」
キリハと同じように地面に膝をつき、ジョーがシアノの頭を労るようになでる。
「ルカ君もエリクも、見るなって言ったんだよ? それでもこの子は、自分の目で結末を見届けることを選んだ。自分の選択から目を背けなかった。それだけで、称賛するには十分だ。」
「……うん、そうだね。」
ジョーの言葉に同意しながら、キリハはシアノを抱く腕に力を込める。
「よく頑張ったね。シアノはすごく偉いよ。」
ジョーの言葉を噛み砕き、自分の想いも乗せて、シアノにそう言ってやる。
今回のことで、シアノが心に負った傷は深い。
その傷が今後この子にどう影響するかは分からないけれど、自分たちを選んだことを後悔させないように、皆で支えていかなければ。
「キリハ……その子はなんと?」
シアノの言葉が分からないリュドルフリアが、そう訊ねてくる。
「今は、何も分からないんだって。もっと落ち着いたら、また連れてくるよ。」
「そうか…。分かった。」
シアノの心境は十分に察しているのか、リュドルフリアは何も言ってこなかった。
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