第1章 ドラゴンを従えていた国

南東の島国 セレニア

 広大な海に数多くの島国が点在する世界。

 この世界には、大きく分けて二つの種族が繁栄していた。



 人間とドラゴンである。



 互いに高い知能を持つ二種族は場所によっては敵対し、場所によっては協力し合って生きてきた。



 南東方向に浮かぶセレニア国は世界的にも珍しく、人間とドラゴンが非常に友好的な関係を築いていた国として有名だった。

 人々はドラゴンに跨って空を翔けて狩りを行い、異種族どうしながら言葉も通わせていたという。



 しかしそれも、今となっては過去の栄華である。



 約三百年前、セレニア国で火蓋を切って落とされたドラゴン大戦。

 五十年に渡って繰り広げられた戦いは双方の戦力を限界まで削り、決着つかずで停戦状態となった。



 今では島を東西に分断するセレニア山脈を境に、人間とドラゴンの住む地は完全に分かたれている。

 停戦後、まれに起こっていた小競り合いも時間の経過と共になくなっていき、いつしか互いに干渉しないという暗黙のルールができあがっていった。



 かつてドラゴンと世界一友好的だったセレニア国は、三百年の間にその交流の一切を失ってしまったのである。



 そんなセレニア国は、現在一つの問題を抱えている。



 ドラゴン大戦時に強襲してきたドラゴンたちを、人間はこれまで蓄えてきた知識の全てを利用し駆逐していった。

 しかし文献上では、その全てを排除することはできなかったとされている。



 排除しきれなかったドラゴンたちは封印され、セレニア国各地に眠っているというのだ。

 セレニア国を治める神官はこの封印を長年見守ってきたが、なすすべもなくその問題は迫ってきていた。



 いわゆる、封印の期限切れである。



 二百五十年に渡る封印は徐々に綻び、封印されたドラゴンたちの目覚めが刻一刻と近づいている。

 とはいうものの、ドラゴンの封印に関する記録や文献は一切残っていない。

 それ故に、ドラゴンの封印などただのまやかしだと訴える勢力もある。



 しかし、神官を筆頭とするセレニア国の中枢は封印の存在を絶対視しており、いずれ来る戦いの時に備えての対策が必死に練られていた。


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