ディアラントの過去と、総督部との勝負。
「オレがドラゴン部隊の隊長になったのは、三年前の話だ。」
そんな出だしから、ディアラントがこれまで辿ってきた道が明かされる。
「その時のオレはまだ大学生で、宮殿に隣接してる国立の軍事大学に通ってた。きっかけは、まあ単純っちゃあ単純。ようはオレが、総督部のお怒りを買っちゃったからなんだよね。」
ゆったりとした口調で語られる昔話に、キリハはじっと耳を傾けた。
「もちろん、オレとしては間違ったことをしたつもりも、変なことを言ったつもりもないんだけど、あの人たちはオレの何かが気に食わなかったらしい。それが具体的になんだったのかは、オレにもよく分からない。それで国外追放か退学かってところだったオレを助けてくれたのが、ターニャ様だったわけなのさ。」
ディアラントの視線が複雑な表情を浮かべるターニャに向けられ、すぐにキリハに戻る。
「軍事会議の結果、オレに下された処分は、特例による大学卒業資格の授与と、一番戦地に送り込まれる可能性が高い、ドラゴン殲滅部隊隊長への就任だった。まあ、一般的な目線から見ればそれは、〝さっさとドラゴンにでも食われて死んじまえ〟って意味だわな。」
なんという非道な処分だ。
怒鳴りたい気分をなんとか抑え、キリハは話を聞くことに集中する。
「とはいえ、どんな部隊でも隊長は隊長。地位だけは高いし、それ相応の特権が適応される。自分たちで処分を決めたくせに、オレに権力を持たれるのが不愉快だったんじゃないか? そこでオレが宮殿に身を置き続けるために課された条件が、国家民間親善大会での五年連続優勝っていうわけ。」
「だから……」
そこでキリハは口を開く。
「そ。あと二年って言ったのは、そういう意味だ。」
ディアラントは眉を下げて微笑む。
「ま、あの時のオレは自分の実力を隠してたからな。総督部の奴らも、オレにそんなことができるなんて、これっぽっちも思ってなかったんだろ。オレが連覇するまでは、大会で連覇を達成した奴もいなかったし。そう考えると、これも
肩をすくめるディアラント。
確かにその背景を加味するならば、この条件は達成できる可能性が限りなくゼロに近い。
それを課すのは、横暴ともいえるだろう。
ディアラントが普通に当てはまる人間であれば、の話だが。
「でも最初の年に、オレがあっさり優勝をかっさらっていったもんだからさあ大変。二年目、三年目ってなるにつれて、こんな風に妨害がひどくなってって、今年……そろそろ、総督部も焦ってきてるんだろうな。」
なんだ、その理不尽極まりない話は。
気に食わないという理由だけで無理難題をふっかけて、それが達成されてしまいそうだと知るや妨害してくるなんて。
そんなくだらない理由で、彼らはディアラントの命すらも狙うというのか。
「大丈夫だ、キー坊。」
顔を歪めるキリハに、ミゲルが声をかける。
「納得できてないのは、お前だけじゃねえ。ドラゴン部隊のみんな、本当なら殴り込みに行きたい気持ちを、ずっと腹の奥で殺してんだ。そこにいる隊長さんが、あくまでも正々堂々と勝負に勝つって言うもんだからよ。」
ミゲルに言われてジョーの方を振り仰ぐと、ジョーはミゲルの言葉を肯定するように大きく頷いた。
(ああ、そういうことなんだ……)
ドラゴン殲滅部隊の人々に宿る、他に類を見ないほどに強固な団結力と信頼感。
それがどこに起因しているのかが、今明瞭に分かった。
ドラゴン殲滅部隊の皆は、ディアラントのことを心の底から想っているのだ。
そしてディアラントのことを強く信頼しているからこそ、ディアラントのために怒りながらも、ディアラントの気持ちを第一に優先してそれを抑えている。
常に同じ思いを胸に、同じ未来を見ているからこそ、ドラゴン殲滅部隊の人々はあそこまで強くあれるのだろう。
「……そんな風に言われたら、俺がムカつくからって暴走できないじゃん。」
皆が必死に感情を押し殺しているというのに、その気持ちを無視することなどできるはずもない。
どんなに納得がいなかくても。
どんなに理不尽な勝負だとしても。
それでもディアラントが正々堂々と勝ちにいくというなら、自分にはそれを応援することしかできないじゃないか。
「悪いな。オレのわがままに振り回しちまって。でも、オレなら大丈夫だから。あと二年なんて、オレにとっちゃ余裕だしな。」
そう言って、ディアラントはからっと笑ってみせる。
その目に、暗い光はなかった。
知っている。
彼はいつも、どんな時でも希望を見失ったことはない。
その目は常に大きなものを見ていて、どんなものでも受け入れられる余裕を兼ね揃えている。
そして自分も皆も、ディアラントを信じている。
彼の言う〝大丈夫〟は気休めでもなんでもなく、確実に未来を希望へと塗り替えるものだから。
心の中にわだかまっていた怒りと不快感が、すっと消えていく気分。
ディアラントは絶対に負けない。
それを一番よく
だからこそ、自分が彼を誰よりも強く信じよう。
あんな卑劣な
「ちゃんと、優勝してよね。」
「もちろん。」
微笑んだキリハに、ディアラントは当たり前のように頷くのだった。
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