後々の致命傷

「最近のキリハ君なんだけど……休みの度に、新しく友達になったドラゴンの所に通ってるんだよね。」



 さすがに黙っているのも気まずくなったのだろう。

 ついにジョーが、その事実を口にした。



「新しく友達になった……ドラゴン…?」



 初耳のディアラントとミゲルは、目をまたたくばかり。



 どうして自分が説明係にならなくてはいけないのか。

 全力で不満そうな顔をしながら、ジョーは歯切れ悪く語る。



「かれこれ、もう半年は前かな…? キリハ君が朝帰りしてきた前日、偶然見かけたシアノ君を追いかけた先で、その子の父親だっていうレクトに初めて会ったんだってさ。で、そのレクトっていうのがドラゴンだったってわけ。」



「は…?」

「ちょっと待て。色々と追いつけねぇ。」



「分かってるよ。吐いちゃったからには、ちゃんと説明するってば。」



 辟易とした溜め息をつきながら、ジョーは淡々と事実を述べる。

 その結果。



「おいおい、嘘だろ…?」

「キリハ、そんな危ないことを……」



 ミゲルもディアラントも、顔面蒼白になってしまった。



「まあ、フール様が怒るのも無理ないよね。ドラゴン大戦を生で見てきたほむらへの案内人としては、レクトとキリハ君が接触するのは許せないだろうから。」



「いや…。ってか、なんでお前もルカもキー坊を止めなかったんだよ。」



「言ったでしょ? 今のキリハ君は、止めるほどに暴走するって。」



 これ以上は追及しないでくれと。

 煙たそうなジョーの態度がそう語る。



「今のあの子は、リスクを分かった上で自分が正しいと思う道を突き進んでるんだ。そういう子に、生半可な説得なんて通用しないよ。それに今回に関しては、あのルカ君でも、キリハ君の理論を崩せる手札がないって言ってた。だからルカ君と話して、この件については、キリハ君が満足するまでは黙ってようってことにしてたわけ。」



「………」



 二人はかなり深刻そう。

 まあ、無理もない反応だとは思う。



 いつの間にか相当仲良くなっていたのか、今のキリハが一番聞くのはルカの言葉だ。

 そのルカが説得できないと言うからには、この宮殿にキリハの考えを改めさせられる人間はほぼゼロ。



 自分ならやろうと思えばキリハを誘導できるだろうけど……正直、今はそれどころじゃない。



「………っ」



 ずっとこらえていた頭痛がひどくなってしまい、ジョーは眉間に指を当てて小さくうなる。



「ちょうどいいや。キリハ君の監視なり説得なりは、二人に任せる。僕はちょっと休憩させてもらうよ。」



「ジョー先輩……体調でも悪いんですか?」

「まあ、そんなとこ……」



 言葉どおりどこか生気を欠いた顔色で、ジョーは深く息をつく。



「深夜帯のレティシアたちの監督に、ノア様とのやり取りに、その他大勢との情報戦争やシステム戦争にって、最近忙しくてねぇ…。そこに加えて、厄介な交渉まで飛び込んできちゃったもんだから、寝る時間もろくに取れてないんだ。」



「ああー…」

「………」



 空笑いのディアラントと、無言で明後日の方へと視線をさまよわせるミゲル。

 そんな彼らの相手をするのも、今は少し厳しかった。



「……ごめん。ちょっと、仮眠を取ってから仕事に入るよ。」



「どうぞどうぞ。ってか、戦争の分は申請出して、給料をもらってください。半分以上はオレのせいですよね? 今年の大会も優勝しちゃって、縛りがなくなっちゃったから……」



「分かってるなら、少しは大人しくして。言っとくけど、僕とランドルフ上官がいなかったら、今ごろ君は死んでるからね。」



「オレは、みんなの愛で生かされてますから~♪」



「余計に頭が痛くなることを言わないでよ。とりあえず、キリハ君のことは教えたからね。あとはよろしく。」



 ああ、だめだ。

 今はとにかく、薬を飲んでも収まらない頭痛をどうにかしたい。



 キリハのことは気になるが、あの子のことはこの二人に任せても大丈夫だろう。



 自分が裏から位置情報を見張っているよりも、二人が正面から寄り添ってあげた方が、あの子も気が楽なはすだ。



 さっきも言ったとおり、今の自分には余裕がない。



 ルカからの交渉が思いのほか響いてしまったようで、それに想定外のリソースを食われてしまっている。



 他の交渉やら戦争やらは命が懸かる手前、切り捨てるに切り捨てられないし、この体調では、さすがにキリハのことにまで手を回しきれない。



 ノアから情報を仕入れて、オークスに渡すのが精一杯だ。



(他に気を張ってくれる人がいる問題は、多少押しつけてもいいでしょ……)



 そんなことを思いながら、ジョーはふらつく足取りで仮眠室に向かう。



 調子を崩した知将の、ほんのわずかな休息。

 間が悪かったと言えばそれまで。





 しかしこれが、後に多くの人々にとっての大きな致命傷になろうとは、この時は誰もが想像もしていなかった―――




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