同じ想いと違う選択
(ああ、そういうことなんだ……)
室内の話を聞きながら、ぽつりと思う。
結局、ジョーも他の皆と同じなのだ。
どんなに痛烈な言葉を突きつけても、どれだけ冷たい態度を取っても、その根幹に基づく想いは一つだけ。
より多くの人が、できるだけ傷つかないように。
頭ごなしにこちらの言い分を否定して無理に話を進めようとしたのは、ジョーなりの優しさだったのだ。
自分がこれ以上の責任を負わないように。
自分が自分を責めてしまわないように。
自分が――― ちゃんと、レイミヤに帰れるように。
(そうだよね…。ドラゴン討伐が終わったら……俺、レイミヤに帰るんだよね……)
最近すっかり忘れていた事実を思い出す。
いつの間にか、自分も周りの皆と一緒に行動することが当然だと思っていた。
でも、本当は違う。
ディアラントを始めとする皆は軍人。
自分はあくまでも民間人。
元々竜騎士隊として召集されたのも、最初は一年間だけという期限つきだった。
ジョーはそれを、常に考えてくれていたのだ。
今はドラゴンを助けようと躍起になれる。
でも――― 自分の任務が終わったら、結局あの子たちはどうなるのだろう?
(どうしよう……俺、無責任なことを言ってる。)
思い至ってしまった。
今の自分は、無意識で都合の悪いことを別問題として切り離しているんだと。
こんなのおかしい。
助けられる命は助けるべきだ、なんて。
その発言に責任も取れないくせに、口先だけで綺麗事を並べている。
ジョーが言う〝こっち側の世界〟で生きていく覚悟もないのに。
いつまでも、ドラゴンたちと一緒にいられるわけじゃないのに。
今のままじゃ、自分は駄々をこねるだけの子供だ。
それを思い知る。
今の話で知ってしまった。
自分が穏やかな生活を続けられているのは、ディアラントやジョーが影で奮闘してくれているからなのだと。
胸が締めつけられるように痛む。
うつむいていた顔を上げれば、皆がそれぞれの表情で黙していた。
こちらに同情的な視線を向ける者。
気まずさからか、露骨に視線を逸らす者。
苛立たしげに顔をしかめる者。
「………」
目頭が熱くなる。
こんなことになるなんて思わなかった。
皆にこんな顔をさせるつもりじゃなかった。
でも、この状況を作り上げたのは間違いなく自分。
自分が怪我で眠っていた間、皆がどれだけ落ち込んでいたのか。
それは、風の噂で小耳に挟んだことがあった。
そしてこうして皆の様子を目の当たりにして、今度は逃げようもなく実感するしかない。
これが、自分が持つ影響力なのだと。
『お前だって、似たようなもんのくせに。』
ディアラントの影響力について話した時、彼にそう返されたことを思い出す。
あの時は、自分はそれほどじゃないと笑い飛ばした。
でも、今はもうそんな風に笑えない。
こんな状況を目の前に、自分のせいじゃないなんて言えない。
皆がこんな顔をしているのは、自分がドラゴンを殺したくないと言い張っているから。
だから、ミゲルとジョーがあんな風に喧嘩するのだ。
アイロスのように自分の気持ちを
皆、自分のことを守ろうとしてくれている。
でもそのせいで、あんなに一つだったドラゴン殲滅部隊が、こんなにもバラバラだ。
自分の意地のせいで……
(じゃあ……俺は、どうすればよかったの…?)
自分の考えが間違っているとは思わない。
でもそれでこんなことになるなら、一体自分はどうすればよかったというのだ。
素直に引き下がればよかったの?
それがドラゴンたちを見捨てることになると分かりきっているのに?
そんな風に命を切り捨てるなんて、自分にはできない。
(人間かドラゴンか……どっちかしか選べないの?)
胸が苦しくてたまらない。
ちゃんと立っているはずなのに、不安と葛藤で地面がぐらぐらと揺れているように感じる。
(もう……分かんないよ……)
答えが見えないまま、ただただ胸だけが苦しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます