誰も知らない決意

 朝から、窓の向こうにある景色がせわしない。

 たくさんの人がそこに群がって、点滴パックを入れ換えたり、いくつもの注射を打ったり。



「エリク…っ」



 おばさんが泣きながら震えている。

 そんなおばさんを抱き締めるおじさんも、今にも倒れてしまいそうなほどに青白かった。



 自身も冷たくなった両手を握るカレンの隣に、ふと影が差したのはその時。



「ルカ!」



 腰を抜かしそうなほどに安心して、カレンはルカの服を大きく揺さぶった。



「あんた、一体どこに行ってたの!? 一人でどっかに行っちゃだめだって言ったじゃない!!」

「うるせぇな……」



 カレンの金切り声を嫌がるように、ルカは片耳を指で塞ぐ。



「家に帰ってたんだよ。シャワーも浴びたかったし、ここにいても気持ちが落ち着かなさそうだったから。」



 ルカの視線が、窓の向こうにいるエリクへと移る。



「やけに慌ただしいな。」

「うん…。あたしもさっき来たばっかりだから、何があったのか……」



 おろおろとするカレンに対し、ルカは落ち着いた様子で医者たちを眺めるだけ。





「……とうげが、来ちまったのかもしれねぇな。」





 小さく、彼は呟く。

 その言葉を受けて、ルカの両親も固く身を強張らせた。



 ここが戦いの正念場。



 生きるか死ぬか。

 一分一秒の世界で繰り返されるこの駆け引きに、エリクも医者たちも勝ち続けなくてはいけない。



「ルカ……大丈夫?」



 カレンが気遣わしげに訊ねると、ルカは静かに頷いた。



「ああ。昨日よりは、多少マシになった。」



 そう語るルカは神妙な面持ちで、微かに目元に力を込める。





(それに―――やることができたからな。)





 内に秘めたるその決意を知る者は、ここにはいない―――


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