好きだからこその選択肢
ドアをくぐり、できるだけ音を立てないようにドアを閉めて―――
「き、緊張したぁー…」
ドアにもたれかかって、ずるずるとその場にへたり込んだ。
「緊張したのはこっちよ!?」
慌てた様子のカレンがひざまずき、心配そうにサーシャの顔を覗き込む。
「大丈夫!? 怪我とかない!?」
相当焦っているのか、カレンは早口にまくし立てながらサーシャの体中を触りまくっている。
そんなカレンの反応がなんだか間抜けに見えてしまい、サーシャはくすくすと笑い声を漏らした。
「大丈夫だよ。なんともない。」
「ほんとに!?」
「うん、ほんと。」
こくんとサーシャが首を縦に振ると、カレンは大きく溜め息を吐きながら肩を落とした。
「あー、もう…。びっくりさせるんじゃないわよ。」
「ごめんね。」
「まったく…。なんで、あんな突拍子もないことを……」
「だって、キリハが風邪引かないか心配だったんだもん。あとは―――」
サーシャはまっすぐにカレンにを見つめる。
「キリハが大丈夫って言うなら、大丈夫だと思ったから。」
実際にドラゴンに触れてみるまでは、とても怖かった。
今も、緊張で体が少し震えている。
でも、あの行動を後悔はしていない。
知っている。
キリハは嘘をつかない。
自分の行動を他人に押しつけもしない。
皆を説得する時も、皆に変わってほしい時も、いつも行動は自分から。
大丈夫だからと笑って、皆に変化を受け入れるきっかけを作ってくれる。
それは、理屈っぽい言葉で説き伏せられるよりも、ずっとずっと信頼できると思うのだ。
だから、大丈夫だと思った。
「……サーシャのすごいとこって、そこよね。」
パチパチと目をしばたたかせていたカレンは、ふとそんなことを言った。
それにサーシャが問うような視線で首を
「だって、好きって気持ちだけで、こんなことまでできちゃうんだよ? ……あたしには、できない…かな。」
「………」
「あ! 別に、自分のことを
サーシャの無言から気まずさを感じ取ったのだろう。
カレンは慌てて両手を振る。
「あたしなら、絶対にやめてって言うと思うの。好きだから。失いたくないから。傷ついてほしくないから。だからこそ、きっと全力で止める。それが相手の望むことじゃないとしても、多分止める。信じて寄り添うことも大事だけど、引き際を教えてあげることも、大事なことだと思うから。」
「それは……」
「だから、サーシャのこと、すごいと思うよ。」
カレンは笑う。
「あたしには、大事な人が追い詰められてるって知ってて、それでも信じて見守ってあげることなんてできないもん。そんでね、きっとキリハには、そんな風に傍にいてくれる人が必要なんだと思う。お似合いじゃない、サーシャたち。」
「ふぇっ!?」
突然そんなことを言われ、サーシャは瞬く間に頬を紅潮させる。
そんなサーシャに、カレンはからかうような表情を浮かべた。
「なによー、照れちゃってー。こんな可愛い子が見守って背中を押してくれるってなれば、キリハだって百人力でしょ。なんなら、キリハにサーシャの勇姿を教えてあげてもいいのよ?」
「そ、それはだめ! 私なんてまだまだだし、恥ずかしいし…っ」
「えええ~、どうしよっかなぁ?」
「カレンちゃん!」
声を荒げるサーシャに、カレンは明るい声で笑う。
顔を真っ赤にしながらも、サーシャはカレンにつられて、同じように笑い声をあげるのだった。
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