画面を挟んだ表と裏

 次なる土曜日、大会三日目。

 この日は各ブロック共に、上位二人に絞られるまで試合が行われる。



 一試合の制限時間は四十分。

 二回戦までの十五分、四回戦までの二十分からは倍になるわけだが、この段階の試合になってくると、決着がつくまでに大体三十分くらいかかるのが通年だという。



 そして試合時間が長くなるということは、キリハとしては苛立つ時間も長くなるということだった。



 対戦相手を脅してまで〝手を抜くな〟と伝えたのに、自分と当たった国防軍の人間は、やはりあえて自分を勝たせようとしているようだった。



 もう文句を言う気も失せてしまったので、遠慮なく相手を追い詰めさせてもらうことにした。

 口で言っても分からないなら、大会の趣旨に沿って剣で語ろうじゃないか。



 すぐに決着などつけさせてやるもんか。



 素早い剣と身の動きで相手の感覚を徐々に麻痺させて、自分の流れに巻き込む。

 そして、わざと負けようとしている理性を手放させ、自然な流れで相手の本気の剣を引き出す。



 周りには人が変わったようないたぶり方だと驚かれてしまったが、自分とディアラントは全くそうは感じていなかった。



 何せ、これが流風剣の本来の姿なのだから。



 嵐のように相手を翻弄し、相手を自分の世界に巻き込んでその動きを操るのが流風剣。

 時にそれは、相手の理性や思考までもを意のままにできるのだ。



 いたぶったと言われてしまったが、自分はあくまでも、手を抜いている奴らの本気を誘い出してやっただけ。

 あれが、本来の試合にあるべき姿だったのだ。



 もちろん、その本来の実力できっちり勝たせてもらったが。



 気付けば自分が本気を出してしまっていたこと。

 そしてその本気で、こんな年下に負けてしまったこと。



 その事実に、国防軍の奴らはプライドをいたく傷つけられたようだった。

 空になった自分の手を茫然と見つめる彼らの姿を見た時には、少しばかり溜飲も下がったような気がした。



 そして迎えた、大会最終日。

 キリハはBブロックの決勝戦を控え、少し早めに入場口の選手控え室へと移動していた。



 会場内には、試合前の一言欲しさにマスコミがうようよとしている。

 いつもは試合開始時間ギリギリになるまで控え室に移動しなかったのだが、今回はカメラをけるためにあえて早めに来た。



 十分ほど前に、一足先に本決勝への切符を手にしたディアラントが控え室を出た影響で、カメラの多くがそっちに向かったというのも救いだった。

 おかげで、マスコミの包囲網を突破することは難しくはなかった。



 キリハは椅子に座り、室内に据えられたテレビをぼんやりと眺める。



 画面に映し出されているのは、これから試合が始まる自分の試合映像だ。

 どこに行くにも目に触れてしまう映像なので、今さら恥ずかしさも感じない。



 民間人としては、前代未聞の圧勝劇だ。

 テレビに映るアナウンサーと評論家が、どこか興奮した口調で言葉を交わし合っている。



 それに対して自分が得たのは、不快感以外の何物でもなかった。



「何が圧勝だよ。あんなの……勝負じゃない。」



 小さくぼやく。



 彼らは何も知らない。

 ディアラントを潰そうと国防軍が躍起になっていることも、そのせいで自分が意図されてここまで勝ち上がっていることも。



 そして知らないからこそ、彼らには自分の気持ちなんか分かるまい。

 きちんと向き合って剣を交えてもらえないことが、どんなに不愉快なのか。



 ディアラントに教えを受けることで剣を好きになって、自分なりに色々と改良を加えながら剣の腕を磨き続けてきた。

 手加減などされなくても勝てる自信はあるのに、そう明言しても、彼らは自分の本気を出そうとしない。



 自分だけではない。

 自分の中に大きく存在しているディアラントのことも一緒に馬鹿にされたように感じて、それはもうはらわたが煮えくり返りそうな心地だった。



「……もう、行かなきゃ。」



 テレビ画面の隅で時を刻む数字に目をやり、キリハは勢いをつけて椅子から立ち上がった。



 ここまできたら、最後までやるしかない。



 選手用にと用意された剣を手に取り、感触を確かめるために数度素振り。

 それをさやにしまってから腰に下げる。



「行きますか。」



 入場口に立ち、一つ深呼吸。

 それで気を引き締め直し、キリハは入場口から一歩外へと踏み出した。


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