第2章 不穏な前触れ

国家民間親善大会

 誰もが待ち望んでいる〝大会〟とは、正式名称を国家民間親善大会という。



 平たく言えば、国内で一番強い人間は誰なのかを決める大会。

 戦い方に決まりはないものの、セレニアでは一定の剣技を習得することが義務化されているという背景からか、参加者の多くは剣で戦う。



 開催は年に一回。

 暑さが頂点を示す八月に行われる。



 正式名称にもあるように、この大会には宮殿直下の国防軍から警察消防、民間人の枠まで、参加者の幅が非常に広く設定されていることが特徴的だ。

 エントリー総数は毎年目を剥くほどであると、他国でも有名なのだそうだ。



 そのためか、エントリー期間はなんとたったの三日しかない。

 他の競技大会などと比べると異常ともいえる短さだが、エントリーの受付は二十四時間体制で行われており、エントリー作業も五分ほどあれば終わる簡単なものだ。



 つまり、迷うくらいなら大会に出るなというわけである。



 とはいえ、それでもエントリー数は膨大だ。

 エントリー締め切りから大会までは二ヶ月程度。

 その間に書類審査や予選を片付けなければいけないので、大会の運営委員は毎年てんやわんやらしい。



 特に今年は大会開催を見合わせていたこともあり、エントリーの開始が半月ほど遅れてしまっている。

 待たされた反動からか、エントリー開始数時間の時点で、エントリー数は例年に届く勢いらしい。

 今年の大会は、過去最大規模になりそうだと報じられている。



 国内最大、しかも国営の大会だ。

 もちろん、それ相応の見返りはある。



 本選に出場するだけで昇給が保証され、結果に応じた報酬も支払われる。

 過去に民間から宮殿に引き上げられた事例も少なくない。

 この大会は、実力次第で人生を変えるきっかけになるのだ。



 民間を大きく巻き込んだ大会なので、国民の注目度もかなり高い。

 大会の日はテレビで生放送枠が大きく取られ、会場のチケットは全日完売という盛況ぶり。

 猛者もさどうしで行われるレベルの高い戦いに、国民は皆熱狂する。



 それほどまでに巨大なイベントは、今年も皆の期待を大きく膨らませながら、着実に開催へと準備が進められていくのであった。


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