それは、あまりにも綺麗な―――

 遠くで、歌が響いている。



 全然知らない歌。

 でも、心に染み入るように切なくて、自分の心を全部包み込んでくれる優しい歌。



 実際に、あの人は自分の全部を肯定してくれた。



 レクトに共感して、人間のどこが美しいのかと思う自分の疑問も。

 傷つけるのはいつも人間の方だという、自分の結論も。



 今までのように、頭ごなしに否定してこなかった。





 むしろ―――どんな自分も肯定するって。





 自分をしっかりと抱き締めて。

 何度も何度も頭をなでて。



 久しぶりに聞く穏やかな口調で、そう言ってくれた。



 そうだね……

 分かんないね……



 ジャミルのことを思うと、どうしたって人間に肯定的にはなれない。



 彼の面影に引きずられて思い出してしまった学校の同級生たちも、今思うと本当にひどく歪んだ顔をしていた。



 外を歩けば、人々が顔をしかめたりひそひそ話をしながらけていく。

 かと思えば、有名人だからって気持ち悪い好意を向けて近寄ってくる人々もいる。



 どいつもこいつも、腐った林檎みたいによどんで見えるんだ。



 でも……ね…?





 人間を焼こうとする炎の中に飛び込んできてくれたユアンは―――すごく、綺麗だと思ったんだよ。





 ユアンが来てくれて、すごくほっとした。

 俺が今一番来てほしかったのはユアンだったんだって、声を聞いた瞬間に分かった。



 だって、こんな気持ち……誰に言えるの?



 今この世界に、望んでドラゴンと血を交わしたのは俺だけなんだ。

 そんな俺の気持ちを分かってくれるのは、きっとユアンだけでしょ?



 ねぇ……ずるいよ……



 あんなに喧嘩してたじゃん。

 何度も二人で〝もう知らない〟って言い合ったじゃん。



 なのにさ……馬鹿みたいにほっとした顔で笑っちゃってさ。

 俺と同じ苦しさを噛み締めて、一緒に泣いてくれちゃって。



 可愛い坊や……なんて……

 俺、もうそんなに子供じゃないもん。



 ユアンは、俺のことを父さんみたいに力強く抱き締めながら、母さんみたいに穏やかに語りかけてくれるんだね……



 俺、どうすればいいのさ?

 ルカみたいに、いっそのこと〝周りの奴らなんて大嫌いだ〟って割り切れたらよかったのに。





 ユアンがあんまりにも綺麗すぎるから、そんなこと思えないよ……





 熱い。

 胸の奥がすごく熱い。



 今この身を焦がしているのは、浄化の赤い炎じゃない。

 何もかもを壊したくなる、真っ黒な炎だ。





 ―――ねぇ、ほむら。お願い。俺に力を貸して。





 俺、このままじゃ、おかしくなっちゃいそうなんだ。

 胸の奥から湧いてくるこの黒い感情を、どうすればいいか分からないんだ。



 だから、ね?

 どうかお願い。





 どうか、俺を―――




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