繰り返される悪夢



 ―――お兄ちゃん!!





 今日もまた、悪夢が巡る。



 人気ひとけのない、埠頭ふとうの一角。

 そこで揉み合うのは、幼い兄弟と複数人の男たちだ。



「やだ! おじさんたちとは行かない!!」



 掴まれた腕を必死に振り払おうとする弟は、完全にパニックに陥っていた。



 自分はただ、兄に一緒に散歩に行こうと言われて、嬉しくてついてきただけなのに。

 一体、何が起こったというのだろう。



 この人たちは誰?

 どうして自分の名前を知っているの?

 一緒に行こうってどこに?



「怖い……怖いよぉっ!!」



 早く逃げたい。

 家に帰りたい。



 そう思うのに、現実は残酷で……



「あ…っ」



 ぐいっと、腕を力強く引き寄せられる。

 子供の力が大人に敵うはずもなく、小さな体は簡単に抱えられてしまう。



「やだ! やだぁっ!!」



 どんなに暴れても。

 どんなに泣き叫んでも。



 この腕からのがれられない。

 誰も助けに来てくれない。





「………」





 一方の兄は、今にも連れ去られようとしている弟を、ただ黙って見つめていた。



 ざまあみろ。

 いい気味だ。



 その胸を満たすのは、真っ黒な感情。



 全部あいつが悪いんだ。

 あいつは無邪気に笑いながら、自分の誇りを奪っていった。

 これは当然の報いだ。



 ああ、なんて愉快なんだろう。

 面白くてたまらない。



「お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」



 この場で唯一頼れる存在に、弟が必死に手を伸ばす。



 馬鹿な弟だ。

 自分が何もせずに傍観している時点で、おかしいと気付けばいいのに。



 楽しい。

 この高揚感を、もう我慢なんかできない。





 弟を見つめた兄は、その顔に愉悦をたたえて笑って―――




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