笑顔の覚悟

「ふう…」



 自室に戻ったルカは、疲労困憊こんぱいの一息をついた。



 立て続けに魔王レベルの奴らと交渉したのだ。

 我ながら、この度胸の強さは褒められていいと思う。



(さあ……踏み出しちまったぞ。)



 結局、胸に芽生えた迷いを振り切ることができなかった。



 この衝動が破滅と紙一重のものだと分かってはいたが、それでも自分は、この道に進むことを選んでしまった。



 仕方ないじゃないか。

 こんなチャンス、今後は訪れるかも分からないんだ。

 今度こそ、後悔なく選択したい。



 今でも脳裏に色濃く残る映像。

 それがこんなにも胸を締めつけて、自分の背中を後押しするんだ。





 あんな光景、二度と見たくはないから……





「さて……」



 ルカはテーブルに放り投げたかばんから、ある物を取り出す。

 それは、小瓶に入った赤い液体だ。



 それをじっと見つめるルカの双眸に、ほんの少しの懊悩が揺れる。



(オレの……覚悟……)



 レクトに言われた言葉をなぞる。



 そりゃ、そうだわな。

 完全に信じたわけじゃないんだから、最低限の監視は入れておきたいわな。



 それに本気で人間を滅ぼしてやりたいと願うなら、この血を受け入れない理由もない。



 仮にレクトが自分の体を使って好き勝手に暴れたところで、目的が一致しているのだから、自分には文句などないはずだ。



 これは、一種の通過儀礼。

 この一歩を踏み出すことで、自分の足は今度こそ岸を離れることになる。



「ここからは、本格的な賭けだな。」





 じっくりと考えを巡らせたルカが浮かべたのは―――笑顔。





 ここまで魔の領域に踏み込んでおいて、今さら何を躊躇ためらう?

 これは、自分で望んだこと。

 こうなりゃ、最後まで突っ走ってやるさ。



 ぎゅっと目元に力を入れて、腹をくくる。



 そして―――


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