強い絆

「なるほど…。だから、全部知ってたんだね。」



 ルカから一連の話を聞き、キリハやディアラントは納得の表情を浮かべる。



「そういうこった。その後は兄さんがアルシードを呼び出して、ついでについてきたユアンも含めて、今日の件について裏で計画を立てといたわけだ。」



「でもルカ君ったら、人を呼び出しておいて、真っ先にシアノ君に言わせた言葉が〝期待してるっつったのに、何死にかけてんだタコ野郎〟だったんだよ? エリクもロイリアも助けてあげたのに、ひどいと思わない?」



 そこで文句を述べたのはジョーである。

 しかし、それに対するルカの反応は、冷たい一瞥いちべつをくれてやるのみ。



「それについては感謝してる。だが、今回はあまりにも隙が多かったんじゃねぇか? オレはあらかじめ、お前の闇を徹底的に揺さぶるって伝えただろうが。心の準備をする時間なら与えたはずだぞ?」



「どこの誰が、人間嫌いの奥にあるトラウマまで揺さぶられると思うかっての。君も、もう一度お兄ちゃんを殺されかければ、僕の気持ちが分かるんじゃなーい?」



「……どうせ、今後はお前が死ぬ気で守るだろうが。」



「何を根拠に?」



 意味が分からないと言いたげなジョー。

 それに対してルカは何も答えず、ふいっと視線を別の方向へと向けた。



「そんなぁ…。そこまで計画してたなら、俺にも教えてよぉ…。ルカが殺されるかと思って、本気で怖かったじゃんか。」



 キリハが不満を一つ。

 次の瞬間。



「お前にだけは言えるか。いつレクトが聞き耳を立ててるとも限らねぇってのに。」

「多少嘘をつく技術を身につけたとはいえ、まだまだ万人を騙せるほどじゃないよねぇ。」



 ルカとジョーから容赦ないツッコミが。

 そして、周囲の人々が彼らに同意するようにうんうんと頷く。



「あうぅ…。確かに、その辺は実力不足ですよね……」



 反論のしようがないので、キリハはしゅんと肩を落とす。



「お前はむしろ、知らない方がよかったんだよ。」



 そんなキリハに、ルカがそう声をかけた。



「お前はいつだって、人に対してはその場で直感的にしか言葉を吐けない。だからこそ……お前の言葉には、有無を言わさない強い力がある。」



「………っ」



 深くうつむいていた視線を上げる。

 再び見つめた親友は、そこで柔らかい笑顔を浮かべていた。



「まっすぐに相手だけを見つめて紡がれるお前の言葉はな、かっこつけて着飾った言葉なんかより、ずっと強く心に響く。そんでオレは……お前のそんな言葉を待ってた。」



「ルカ……」



「はは…。傷が痛くて弱ってるから言うんだぞ? 二度は言ってやらないから、よく覚えとけ。」



 ルカの泣きそうな笑み。

 彼のそんな顔を見るのは、出会ってから初めてのことだった。





「ありがとう、キリハ。アルシードにお前を頼んだのは、お前こそがオレの頼みの綱だったからだ。お前ならオレをぶん殴りに来てくれるって……ずっと、そう信じてた。」





 メッセージ越しではなくて、ちゃんと本人から告げられる想い。



「ルカ…っ」



 自覚するよりも圧倒的に早く、涙があふれて零れ落ちる。

 ルカの言葉が胸に痛くみて、それでもとても温かくて嬉しい。



 まっすぐに相手だけを見つめて紡がれる言葉は、強く心に響く。

 今のルカは、その言葉の正しさを証明していた。



「俺も……俺もありがとう…っ。ルカがいなかったら……今頃、俺もみんなも死んじゃってた。色んな人に助けられてきたけど……ルカがここにいたから、俺はここまで来られたんだよ。」



 ああもう。

 本当なら、思い切り抱き締めて絆を確かめ合いたいのに。

 そんなに怪我だらけじゃ、手を握るので精一杯じゃないか。



 ユアンが誇らしげにしていた理由が、今ならよく分かる。



 苦難を乗り越えて培われた絆は、どんな困難も打ち砕けるだけの力を生み出す。

 この絆を皆が信じ続ける限り、希望は消えないんだ。



「まあ確かに、ルカ君がいなかったら、僕もエリクを助けようとなんかしなかったかもねぇ…。それにしても、普段悪ぶってる奴が、ここぞという時に熱い展開を引き寄せるなんて……ルカ君ったら、案外物語好き? しかも、超がつくくらいの王道ストーリー系。」



 空気を読まないジョーの冷やかし。

 それに、ルカは顔をしかめる。



「アホか。オレは、王道ストーリーが一番苦手なんだ。現実感がなさすぎてよ。そういうお前は、血も涙もないリアリストのくせに、空想世界の物語なんか読むのか?」



「うん? 結構読むよ? 世の中のお馬鹿さんたちを踊らせるためには、流行にはそれなりに敏感じゃなきゃいけないもので。」



こえぇわ。お前マジで、この件が終わったら手ぇ切るからな。金輪際、オレに関わるんじゃねぇ。」



「満身創痍そういのくせに、口だけは達者なことで。」



「どの口が言う。この真っ黒ひねくれ野郎が。」



「……そうだね。君は僕に似てはいるけど、まだまだ真っ白だ。」



 少しだけ寂しそうに微笑むジョー。

 彼は一瞬でその笑顔を隠し、前方へと視線を向けた。



「さあ、出口が見えてきたよ。みんな、かなりまぶしいはずだから、目がくらまないようにね。」



 そう言われて前を見れば、十数メートル先に洞窟の出口が見える。

 出口は光で満たされていて、まるで別世界に通じるゲートのようだ。



 この先に待つのは、本当に最後の戦いだ。



 それを乗り越えた先にあるのは、あそこに見える光のように、目がくらむほどの希望であふれた世界でありますように。



 そんなことを願いながら、キリハは力強く前へと進んだ。


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