情報の塊たる人物

「ふーん…。家出した子、ねぇ……」



 パソコンをせわしなく叩きながら、電話に出たジョーは特に興味もなさげに呟いた。



「相変わらず、変な問題ばっか引き寄せる子だなぁ。キリハ君も。」

「うう、ごめんなさい……」



 何も言い返せない。



「ただでさえ忙しいジョーにこんなことを頼むの、本当に申し訳ないんだけど…。でも、俺たちじゃどうにもできないし、困っちゃって……」



 本気で申し訳ない。

 だが、ルカの人選は誤っていないと思う。



 時間も情報もなく、下手にシアノを連れて外に出られないとなると、頼れるのはジョーしかいないのだ。



「んー……分かったよ。滅多にないキリハ君の頼みだし、引き受けましょ。」

「え…? い、いいの!?」



 まさかあのジョーが、あっさりと引き受けてくれるなんて。

 キリハは思わず、電話を掴む手に力を込めた。



「その代わり、今度ご飯にでも付き合って。ちょうど、キリハ君には訊きたいことがたくさんあったんだ。お代はそれでいいよ。」



「訊きたいこと?」



 はてさて。

 最近の自分は、何かジョーの興味を引くようなことをしただろうか。



 記憶を手繰たぐるも、特にこれといって思い当たることがない。



 悩ましげにうなるキリハに、ジョーはくすくすと笑った。



「ふふふ、知ってるよ? ノア様が帰ってから、キリハ君が個人的にあの人と連絡を取り合ってるの。」

「あっ…」



 なるほど、そのことか。

 だけど……



 キリハは不思議そうに首を傾げる。



「別にいいけど……ジョーが欲しがるような情報はないと思うんだけどな…。俺が将来のことについて、ノアに相談に乗ってもらってるだけだし。」



 ノアと頻繁に話しているのは本当のことなのだが、基本的には自分の話をノアに聞いてもらって終わる。



 ノアから話すことなんて雑談の域を出ないことばかりで、彼女から重要そうな話を聞いたことはないと思う。



「別にそれでいいの。僕が勝手に情報を仕入れるだけだから。」



 ジョーが、何やら恐ろしいことを言ってくる。



 しかし、いくら自分が気をつけたところで、どうせジョーには勝てない。

 それだけは明らかなので。



「うん、分かった。それでお願い。」



 答えは一つだった。



「素直でよろしい。ってことで、その子のことをなるべく詳しく教えてくれる? ある程度の問い合わせ先は見当つけたから。」



 さすがはジョーだ。

 仕事が早い。



 キリハは、先ほどシアノから聞いた情報を彼に伝えた。



 とはいえ、情報には素人しろうとの自分たちだって、これは苦戦すると分かりきっていたくらいだ。



 一通りの話を聞いたジョーは、難しそうな声をあげた。



「うーん…。それは、さすがに手がかりが少なすぎるね。」

「だよね……」



 そう言われると思っておりました。

 やっぱりジョーでも、ここまで情報が足りないと動けないらしい。



 早くも諦めモードのキリハだったが、対するジョーはすぐに打開策を見つけようと質問の方向性を変えてきた。



「じゃあ、次はその子の見た目と、保護した時の服装を教えて。もし親御さんが捜索願を出してるなら、身体的特徴で何か引っかかるかも。」



「ええっと……」



 キリハは虚空を見上げて記憶を探る。



「シアノを見つけた時は、白いパーカーとカーキー色のズボンだったかな。靴は白に黒のラインが入ったスニーカーで、かばんとかは持ってなかった。」



「うん。あとは?」

「うんと……」



 キリハはそこで言葉を濁す。



「……髪の毛が真っ白で、両目が赤かった。」



 一瞬言うのを躊躇ためらいそうになったが、意を決してそれを口にする。



 ジョーなら、きっと大丈夫。

 自分のことも差別してこないし、きっとシアノのことも変に思わないはずだ。



「白い髪と、赤い目…?」



 ジョーの口調に、いつもと違う響きが混じる。

 それから彼は、何かを考え込むように黙り込んで、しばらく。



「―――分かった。多分、親御さんはすぐに見つかるよ。」



 ジョーは確信に満ちた声で断言した。



「ほんとに!?」



 受話器に飛びつくと、ジョーは電話口で苦笑したようだった。



「安心して。何か分かったら連絡するね。」

「うん! ありがとう!!」



 キリハは満面の笑顔で電話を切った。



 ジョーのことだ。

 きっと、最速でシアノの父親を見つけてくれるに違いない。



 シアノが家に帰りたくないと思っている可能性は捨てきれない。

 ただそれについては、ジョーがシアノの父親の居場所や人なりを突き止めてくれた後で考えても、遅くないだろう。



 この時は、まだ知らなかった。





 シアノとの出会いが、今後の未来に大きな変化をもたらすことになるなんて―――




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