一番好きな人の選択

「―――おや。どうやら、予想外の客が訪れたようだ。」



 ほの暗い洞窟の奥で、ふいにレクトが首をもたげた。

 その言葉を受けて、シアノも曲がり角の向こうに目を向ける。



 父がそう言ったので意識を研ぎ澄ませると、確かに微かな足音がする。

 それは迷いなくこちらに近づいてきていて、自分たちがここにいることを知っているような歩み。



 でも―――この足音のリズムは、キリハじゃない。



 彼以外で、自分たちがここにいることを知っているのは―――





「ルカ……」





 曲がり角から姿を現したルカを見て、シアノは複雑な心境に陥る。



 嬉しさと悲しさが半分ずつ。

 そして、それらを大きく上回るのは恐怖だ。



 まだ決めていないと言ったルカ。

 彼は、たった一人でここに何をしに来たのだろう。



 答えを聞きたいのに、同じくらい答えを聞きたくない。





〝お前たちの味方にはならない〟





 そう言われてしまったら、ぼくは……



「シアノ。少し、耳だけ貸しておくれ。」

「うん……」



 ルカとは直接話したいという自分の気持ちを、最大限に考慮してくれた父の言葉。

 それに従うと、音が少しくぐもったような感覚に包まれた。



「どうしたの…?」



 震える声を、必死に喉から絞り出す。



「悪いな。オレはあいつほど馬鹿でも、お人好しでもねぇんだ。」



 ルカの声は、ひどく冷たくえていた。

 とても好意的であるとは思えない。



「うう…っ」



 怖くなって、思わず父にしがみつく。



 嫌だ。

 お願い。



 拒絶しないで……



 ルカには死んでほしくない。

 エリクみたいに苦しんでほしくない。



 ぼくたちと一緒に、笑ってよ……



「シアノ。オレの言葉は、レクトに聞こえてるか?」

「………っ」



 怖くて声が出なかったので、なんとか頷いて〝うん〟と答える。



「そうか……」



 こちらの答えを見たルカは、一度瞑目。

 数秒後に目を開いた彼は、まっすぐにレクトを見上げた。



 そして―――





「何を企んでいるのか、洗いざらい吐いてもらおうか。場合によっちゃ―――あいつの代わりに、オレが協力してやる。」




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