悪夢の始まり

「やべぇ、やべぇ。ドラゴン討伐のせいで、来るのがこんなにも遅くなっちまったぜ……」



 閑静な住宅街を歩くミゲルは、とあるマンションを見上げる。



 十日ばかり前に受け取った〝助けて〟というメッセージ。

 すぐにどういうことかと電話を返したが、本人は誤送信してしまっただけの一点張りだ。



 気になるから会おうと言っても、仕事が忙しいからと断られた。

 じゃあ自分が家に行ってやると言えば、絶対に来るなと大声で怒鳴られてしまった。



 これで何もないというのは、あまりにもおかしな話だろう。



 本当は一刻も早く押しかけたかったが、運の悪いことにドラゴン出現の予測日が近く、下手に宮殿を離れられなかった。



 その事後処理が終わり、明日から二日休みという今夜、ようやく時間が取れたのだ。



 逃げられたら困るので、家に行くとのメッセージを送ったのはついさっき。

 すぐに既読のマークがついたということは、彼も仕事を終えて家にいるはずだ。



 まあ、部屋の明かりがついているのを確認してからメッセージを送ったので、逃げようもないのだが。



 マンションのエントランスを抜け、エレベーターで五階へ。

 細い廊下を進み、目的の部屋のインターホンを鳴らす。



「ミゲル……」



 素直に出てきた彼は、こちらを見るなり苦虫を噛み潰したような顔をした。



「来ないでって、あんなに言ったのに……」

「無茶なこと言うな。」



 一言でばっさりと切り捨て、ミゲルはなかば無理に部屋へと上がり込む。



「あんなメッセージが来たら、誰だって心配になるだろうが。キー坊から聞いたぞ? 体調が悪化してるのに、休むどころか残業してばかりだって。」



「………」



「ん? どうし―――」



 突然無言になられたので、後ろを振り返る。

 その瞬間。



 ―――バチッ



 電気が弾けるような音と共に、首筋から強烈な衝撃と痛みが襲った。



「………っ」



 出る言葉もなく、体が床にくず折れていく。



「だから……来ないでって言ったんだよ……」





 視界が暗がりに侵食されていく中、涙を流す彼の唇が醜く歪んで―――




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