背中を押してくれる言葉

 キリハの宣言を聞いたルカは、微かに頬を赤らめる。

 そして、そろそろと視線を逸らした。



「お前、本当に単純で能天気だよな。こんなんで元気出るのかよ。」

「そりゃ出るよ。俺がやってたこと、無駄じゃなかったって分かったもんね。」



 ルカがこんなことを言ってくれたのも、きっと自分が今まで諦めずにドラゴンたちと接してきたからだと思う。

 自分を奮い立たせるためにも、勝手にそう思うことにする。



「本当にありがとう。ルカのおかげだよ。」



 キリハは無邪気な仕草でルカに笑いかけた。



「べ、別にオレは何も……」

「そんなことない。」



「だから、そんなに大袈裟なことはしてねぇし。」

「それでも、俺は嬉しかったもん。いいじゃん別に。こういう時は、普通に〝どういたしまして〟って言えばいいんじゃないの?」



「………っ。やめやめ!」



 ぐっと言葉をつまらせたルカは、キリハにそれ以上何も言わせまいと必死に両手を振った。



「礼ならオレじゃなくて、カレンとサーシャに言え! オレは、あいつらの意見を伝えに来ただけだ。そこに転がってる毛布だって、持ってきたのはサーシャだって話だぞ。」



「え…? ルカじゃなかったの?」



 床に畳んで置いてある毛布とルカを見比べ、キリハはきょとんと首を傾げた。



「カレンが見てたって言うんだから、多分そうなんだろ。」



 ルカがこれ見よがしにと話題を変える。



「あいつ、相当怖いの我慢してそれを届けに来たと思うぞ。中央区にいた時のあいつのままだったら、まずできなかったはずだ。お前が変えたんだよ。あいつのこと。」



「俺が?」

「ああ、そうだ。だから、自信持っとけ。」



 ルカはぶっきらぼうに言った。



「中央区の奴らも宮殿の奴らも、疑うことだけは一丁前にできんだよ。その中でもお前だけは、馬鹿みたいになんでもかんでも信じて、猪突猛進に突き進もうとするだろ。」



「うっ…。それのどこに自信を持てと……」

「うっさい。話は最後まで聞け、馬鹿猿。」



 ひどい言われようだ。

 そうは思ったものの、キリハはルカに言われたとおり、ひとまずは口を閉じることにする。



「そうやって裏表なく物事と向き合うことも、ここじゃできない奴の方が多いんだ。それができるってのは、立派なお前の強みだろ。」



「!!」



「自信持てよ。お前は普通なんてもの、簡単にひっくり返せる奴だろ。サーシャのことも……オレのことも変えたみたいに。認めるのはしゃくだかな。」



 横目でこちらを見て、ルカは複雑そうにしながらもはっきりと言い切った。

 それに何も言えずに黙ってルカのことを見つめていると、彼はどんどん顔を赤くして、ついには頭を抱えてしまう。



「あ~~~っ!! 言うんじゃなかった! 言うんじゃなかった!!」

「えっ……ちょ、なんで!?」



 癇癪かんしゃくを起こしたかのように自分の髪を掻き回すルカに、なかば茫然としていたキリハは慌ててそう言い返した。



「うるっせえ! 黙れ! このお人好し!!」



 ルカの暴走は止まらない。



「分かってんだよ。オレのガラじゃねえってことはよ…。ちくしょう……オレ、何言ってんだろ…。ありえねえ…っ」



 うなだれるルカ。

 さらさらと落ちていく髪の隙間から覗く耳は、驚くほど真っ赤になっていた。



 これはつまり……



「あ、恥ずかしかったのね。」

「言うな! 空気読めねえ奴だな、ほんとに!!」



 ぽんと両手を叩くキリハに、ルカが悲鳴のような声でえた。



「えー、俺はいいと思うよ。遠慮はいらないんでしょ? それに、そういう変化なら大歓迎って言ったじゃん。嬉しかった。」



 これは素直な気持ちだ。



 ルカが少しずつ変わってきているのは、肌で感じている。



 それが自分の影響かどうかは分からないけれど、今までの彼の口からは絶対に聞けなかったような言葉の数々が、こうして聞けるようになったのは、純粋に嬉しい。



「ルカも自信持っていいよ。ルカだって、ちゃんと誰かのことを思いやって支えられる奴なんだからさ。素直になっちゃえば楽だよ。」



 元気づけてもらえたお返しのつもりで言ってやったのだが、それを聞いたルカは、何故か余計にうなだれてしまう。



「ほんと……お前って、なんでそんな寒気がするセリフをぽんぽんと言えんだ? 頭のネジが何本か足りないんじゃねぇの?」



「ええ…? そこまで言う? 自信持てって言ったの、ルカなのにー……」

「もう黙れ。何も言うな……」



 ルカは両手で顔を覆う。

 そんなルカが面白くて、そして胸の中が温かくて、キリハは久々に声をあげて笑ったのだった。



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