【第9部】その絆を再び―――

プロローグ

全ての原因

「今のお前は、オレと同じだろう。」



 これまで聞いたことがない優しい声で、ルカは言った。



「本当は、やり返したくてたまらないんだろう? アルシードの代わりに、オレが認めてやる。いいんだよ。ほむらの炎で、人間を裁いたって。だって……命の対価は、命でしか支払えないんだからな。」



 暗くなった視界に響くのは、確かにルカの声。

 そのはずなのに……まるで、別人の声を聞いているような気分だ。



「一人でその道に進むのが不安なら、オレが一緒に進んでやる。お前が頼めば、アルシードだって手を貸すはずだ。あいつもオレと同じで……大多数の人間を嫌う一方で、お前だけは特別に認めている。お前のためになら、今までの自分をねじ伏せて変われるんだ。」



 やめて……

 やめてよ。



 こんな時に、そんなことを言わないで。

 嬉しいはずの言葉なのに、嬉しいと感じながら受け取れないじゃん。



「だから……お前も、そろそろ思い出せよ。」



 ルカの声に、微かに力がこもる。





「お前は―――使?」





 今さらなはずの言葉に、ハッとさせられる。

 その心の隙間に、ルカの思いが染み込んでいく。



「竜使いじゃなければ、お前はこうして狙われなかった。お前の親も、殺されずに済んだ。オレたちだって、こんなに理不尽な目に遭わなかった。よく考えろよ。オレたちをそんな存在にしたのは―――?」



 そう言われてすぐに思い浮かんだのは、何度も自分を助けてくれた遠い祖先の姿。

 しかし。



「違う。」



 自分が口を開く前に、ルカはそう言って首を横に振った。



「レクトは言っていたな。ドラゴン大戦の時、竜使いは最前線で戦っていたって。それに後ろ指を差したのは……それ以外の人間たちだよな?」



「………っ!!」



 何も答えられなかった。



 そのことには、レクトの話を聞くずっと前―――ケンゼルの話を聞いた時から、自分も思い至っていたから……



「それ以前に、おかしいと思わねぇか? 昔は竜使いがかなりの権力者だったって話だけど……あのユアンが、権力を欲するような人間か?」



「………」



「お前だって、身に覚えがあるだろう? あいつらはな、自分にはない大きな力にあやかろうとして、一人と一匹の小さな友情を、特別なものに仕立て上げたんだ。それが、全ての原因じゃないのか?」



「………」



 違う、なんて言えなかった。



 自分はただ、一人の人間として《焔乱舞》を掴んで、レティシアたちと向き合っているだけ。

 そこに、世間の称賛や批難なんていらない。



 だから、変に持ち上げないで。

 自分の行為を批判するのは構わないけど、そこにある命まで否定しないで。



 そっとしておいてくれれば、それでいいから。



 これまで何度もそう思ってきた心が、ルカの言葉を否定させなかった。



「これで、よく分かったよな? お前が救うべきなのは誰で、裁くべきなのは誰なのか。」

「………」





「先に行って待ってるぞ。ユアンと一緒に……―――あの場所へ来い。」





 最後にそう囁いたルカは―――それから、姿を消した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る