信じてもいいの…?
ふいにざわめいた胸を押さえるキリハ。
そんなキリハの様子に気付いているのかいないのか、ジョーは淡々と話を続ける。
「他の人って、ディアに味方したことでドラゴン部隊に飛ばされたり、総督部がディアに課した処遇に抗議する意味で、自分から志願してきた人ばっかなんだよ。だからディアのことをまっすぐに信じてるし、総督部が少なからず気に食わないわけ。でも僕がドラゴン部隊に来た理由は、そのどっちでもないんだ。」
「えっと……なんで?」
訊いていいのだろうかと少し迷ったが、キリハは思いきって訊ねてみることに。
「こっちの方が、面白そうだったからかな。」
返ってきた答えは、なんとも単純なものだった。
「そ、それだけ!?」
思わず叫んでしまったキリハに、ジョーはなんでもないことのように次の言葉を紡ぐ。
「それだけって…。逆に僕は、それ以外の理由では動いたことないんだけどね。」
「だからなのか、国防軍では色んな僕の噂が、それはもう嵐みたいに吹き荒れてるんだ。実は国防軍のスパイとしてドラゴン部隊に送られたんだとか、ディアやターニャ様の弱みを握ってて、裏から宮殿本部を操ってるとか、本当に色々。……ま、宮殿内の人なら、ある程度黙らせるだけの情報は握ってるけどさ。」
さらりととんでもないことを言うジョーに、キリハは言葉を失ってしまった。
まさか、皆がジョーをやたらと恐れているのは、こういう理由なのだろうか。
先ほども言葉だけで国防軍の奴らを撤退させていたし、ありえる気がしてきた。
そんなキリハの気付きを肯定するように、ジョーの言葉はさらに続く。
「こういう世界って、結構情報がものを言うんだよ。総督部としては、僕が持つ情報が喉から手が出るほど欲しいってわけ。今のところ僕がグレーゾーンにいるから、どうにかして総督部側に引き込んでおきたいんだろうね。まあ、無理もないけど。」
肩をすくめて、ジョーはやれやれと息を吐き出す。
「僕は各部署の上層部ともそれなりに交流があるし、裏で動いてくれる手足もそこそこ。敵に回すとしゃれにならないんだから、そりゃあお金も積みますよね。それに……証拠が掴まれてないから噂で済んでるけど、僕とランドルフ上官が繋がってるって話は事実だし。」
ジョーが
「繋がってるって……どういうこと?」
「あれ? 知らない?」
自分の問いかけに、ジョーはわざとらしく眉を上げる。
そして、なんでもないことのようにこう答えた。
「僕が前にいた部隊は、参謀局第一部隊――― つまり、ランドルフ上官は僕の元上司だよ。」
「―――っ!!」
それを聞いて、はたと思い出した。
『国防軍参謀局第一部隊隊長、並びに国防軍総督部序列第二位のランドルフという。』
ランドルフは確かにそう名乗っていた。
なるほど。
だから先ほどの連中は、ランドルフがジョーを手放したと言っていたのか。
そして、彼が治める部隊に所属していたジョーは、今も彼との繋がりがあることを認めた。
これでは、ジョーが国防軍のスパイとしてドラゴン殲滅部隊に送り込まれたという噂が飛び交うのも当たり前じゃないか。
ドクン、ドクンと。
心臓が一層うるさく鳴り響く。
昨日、自分にメモを託していったランドルフ。
結果的にディアラントへの妨害工作を阻止することに協力してくれたランドルフだが、彼はあくまでも総督部の人間。
あのメモの正しさは認めるしかないが、だからといって自分は、ランドルフを完全に信用したわけではない。
「どうして……」
すっと肝が冷える心地。
目の前の景色がゆらゆらと揺れる。
分からない。
自分は、ランドルフを――― ジョーを信じてもいいの…?
ジョーは黙って、静かにこちらを見つめてくる。
じっと。
絡みつくようなその視線が、忘れかけていた緊張感を徐々に思い起こさせた。
「……知りたい?」
ジョーが浮かべたのは、蠱惑的な含みを持たせた、あの
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