特攻部隊のもう一つの顔

 ミゲル、ディアラント、ターニャに続き、今度はジョーの視点から闇の内情が語られる。



「ディアが隊長に就任するよりずっと前から、ドラゴン部隊ってお払い箱だったんだよ。」

「お払い、箱?」



「そう。総督部に盾突いた人や、使えない人間を送る左遷部隊。ドラゴン部隊に送られるってことは、えげつなく言うなら、〝お前は国防軍に必要ないから、ドラゴンが出たらさっさと死にに行ってくれ〟ってことなんだよ。」



 ジョーの口から告げられるのは、ディアラントも言っていたこと。



「人の命を、なんだと思って…っ」



 両手を震えるほどに握り締めるキリハ。



「まあまあ、落ち着いて? あくまでもこれは、国防軍内の認識だから。」



 ジョーは人差し指を立てて、何かを否定するように指を左右に振った。



「本当は違うの?」

「もちろん。」



 キリハが訊ねると、ジョーはそれに答えるように頷きを返す。



「神官の名前は伊達じゃないんだよ。確かにここは特攻部隊だけど、国防軍からは独立していて、指揮系統の上にいるのは神官のみ。つまり、神官が誰の顔色をうかがうこともなく、自分の好きなように使える部隊なんだ。それこそ、この部隊が持つ権力は総督部に匹敵するよ。キリハ君だって、神官直轄の特殊部隊である竜騎士隊の一員として、びっくりするような待遇を受けてるでしょ?」



「う、うん……」



 自分に許されている特権を思い返し、キリハはジョーの言葉を肯定するしかない。



「でも、このことは総督部によって念入りに揉み消されているんだよね。ドラゴンと戦わされるだけの、左遷部隊でないと困るんだ。神官であるターニャ様に、下手に力をつけられたら困るから。」



「………」



 脳裏に揺れるのは、寂しげなターニャの姿。



 自分は役目が終われば捨てられる人形だと、彼女はそう言っていた。

 それは決して、大袈裟な表現ではなかったのだ。



 ジョーという第三者から同じような話を聞くと、その事実が痛いほど胸にみる。



「あれ、驚かないんだ。ってことは、ターニャ様と国防軍の仲がよろしくないってことは、誰かに聞いたのかな。」

「さっき、ターニャから聞いた。」



 答えると、何故かジョーはひどく驚いたような顔をした。



「……へえ。あの方が直接、か…。さすがはディアの愛弟子さんだね。」

「え?」

「いや、こっちの話。君って、本当に面白い子だと思って。」



 ジョーは軽く首を振り、表情を元の穏やかなものに戻して再び口を開いた。



「ともかく、国防軍の何も知らないお馬鹿さんたちから見ると、僕らは不運にもドラゴン部隊に飛ばされた、可哀想な人たちってわけ。だからつけ入る隙はいくらでもあると思って、ああやってゆすりをかけてくるの。あの人たちは僕らが、左遷部隊から国防軍に戻れるチャンスを捨てるなんて思ってないからね。特に今年は本当にドラゴンが出ちゃってるから、今なら釣れるだろうって躍起になってるみたい。他の部隊に比べて、僕らの致死率はうんと跳ね上がっちゃってるからね。命がかかれば、普通なら少しはなびくもん。国防軍に戻れば、ドラゴン討伐に関わらなくて済むんだからさ。」



 ジョーの言葉に、キリハは嫌悪感もあらわに顔を歪めた。



 最初のドラゴンが出現してから半年以上。

 国防軍がドラゴン討伐に介入したことは皆無。

 国の危機だというのに、彼らは一度も動こうとはしなかった。



 ドラゴンが出現するようになった今も、セレニアが以前と同じ平和を保っていられるのは、ドラゴン殲滅部隊と竜騎士隊が必死に戦っているから。



 それなのに総督部の奴らは、国を最前線で守っているドラゴン殲滅部隊を内側から壊そうとしている。

 ターニャとは違って、国のことなどどうでもいいと言われているような気分だった。



「今年は本当にしつこいよー。他のみんなと違って、僕なら落とせると思ってるのか、僕へのアプローチだけ諦めてくれる気配がなくて。」



「え…? なんで?」



 キリハは首を傾げた。



 ジョーは参謀代表を務める、ドラゴン殲滅部隊の重要人物。

 ミゲルとは昔からの親友だと聞いているし、どう考えてもジョーが皆を裏切るとは思えないのだが。



「僕がドラゴン部隊に来た経緯や理由は、みんなとは少し違うから。」



 あっさりとしたジョーの答え。

 それに、ほんの少しだけ胸騒ぎがした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る