この流れって……

 後悔していた。

 勢いとはいえ、ルカに八つ当たりのように自分勝手な言葉をぶつけてしまったことを。



 ルカたちにだって、彼らなりの苦悩があるはずなのに。

 わがままを言っているのは自分だと、それも分かっていたのに。



 今になってルカがルカなりに行動してくれていたことを知って、余計にその後悔が自分の胸を圧迫する。



「別に、オレはあの時のことは気にしてない。」

「でも俺は……」

「オレらの関係なんて、そんなもんだろ。」



 ルカはあっさりとした口調でキリハの言葉を遮った。



「今さら、遠慮するような仲なのか? 溜め込むよりは、ぶちまけた方が楽だろう。慣れないことしようとすんな。」

「……ごめん。」



 囁くように告げる。



 今なら分かる。

 これが、ルカなりの優しさなのだと。



「だあーっ、もう! 気にしてないって言ってんだろ!? ほんと……お前がそんなんだと、こっちの調子が狂うんだよ。」



 ルカは顔をしかめると、キリハに半目を向けた。



「あのな、オレも大概だと思うけどよ…。お前もお前で、普通から相当ずれてんぞ?」

「え……そう?」

「アホか。どこをどう見たら、お前が普通なんだよ。」



 重たげな息を吐き出すルカ。



「竜使いのくせして、他の奴らと仲良くしようとしたり、ドラゴンを助けようとしたり…。お前のやってることは、突飛すぎんだよ。普通ならまずやらねえし、多分考えもしねえ。風当たりが強いのは目に見えてるし、めんどくさいからな。」



「………」



「んなめんどくさいことを一人で背負い込んで爆走してんのに、文句の一つも言うなっていうのが無理な話だろ。オレだったら、お前の十倍は文句たれてる。」



「……あれ?」



 そこでキリハは、はたと思い至る。

 この流れって……



「ルカ……もしかして、なぐさめてくれてる?」

「………っ」



 問いかけた瞬間、ルカがぎくりと身をすくませた。

 答えは明白。



「ありがとう。」



 キリハが笑うと、ルカはまた顔を背けてしまった。



 今さら遠慮するような仲でもない。

 確かにそうかもしれない。



 ルカは自分を包み込んでくれる兄のようなディアラントとも、仲間として自分を支えてくれるサーシャやカレンとも少し違う気がする。

 こういう存在って、どう表現すればいいのだろう。



(ちょっと……甘えてもいいのかな?)



 少し悩み、キリハはドラゴンを見上げて口を開いた。



「ルカ…。ルカは、どう思ってるの? この子たちのこと。」



 思いきって訊ねてみる。

 すると。



「……逆に、お前はどう思ってるんだ?」



 そう訊き返されてしまった。



ほむらに選ばれたから。助けられる命なら助けるべきだから。そんな義務感と理想論だけで、こいつらをかばってるのか?」



「………」



 ルカらの問いを受けて、じっとドラゴンを見つめるキリハ。



「――― ちょっと、違う。」



 ぽつりと。

 それは、なかば無意識で出てきた言葉だった。



「なんとなく、伝わってくるんだ。俺たち人間がドラゴンを怖がってるのと同じで、この子たちも人間が怖いんだって。感じてることは、俺たちと同じだって。俺たちみたいに、この子たちにも心があるんだって思ったら、なんかもう、他人事ひとごとには思えなくて。どうにかして助けたいって思った。義務感なんて、途中から綺麗さっぱり忘れてたよ。」



 そう。

 義務や理想なんて関係ない。



 自分が彼らを助けたい。

 ただそれだけだ。



「こいつらが、お前を騙してるだけかもしれなくてもか?」



 ルカはさらに問いを重ねる。

 ジョーも言っていたその言葉にキリハが眉をひそめると、ルカは「いいから聞け」と言って先を続けた。



「お前は知るべきだ。なんでジョーたちが、このドラゴンたちをあんなに疑うのか。」

「―――っ!!」



 瞠目して口をつぐんだキリハを横目に、ルカはこう言い放つのだった。





「よくよく考えてみろ。こいつらが封印から目覚めてここにいるってことは、ドラゴン大戦時代にもこいつらはここにいて、人間と戦ってたかもしれないってことなんだぞ。」





 それは、自分が欠片も想像しなかった可能性。

 突きつけられたその可能性に、頭が真っ白に染まってしまった……


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