初めてのわがまま
ルカと二人で洞窟の曲がり角から姿を見せると、レクトの傍で丸くなっていたシアノが、とても驚いた様子で飛び起きた。
どうやらレクトは、ルカの訪問をお楽しみとして内緒にしていたらしい。
突然のことに、目をぱちくりとしばたたかせるシアノ。
次第に、その頬が紅潮していって―――
「ルカ!!」
自分の時以上に笑顔を輝かせたシアノは、一目散にルカの胸へと飛び込んでいった。
「おおっと……」
自分と同じく感激のタックルを受けたルカは、数秒目を丸くした後、穏やかに表情を
「久しぶりだな。まったく……心配させるだけさせて、勝手にいなくなりやがって。」
「ごめんなさい…っ」
ルカが会いに来てくれたことが相当嬉しかったのか、シアノはルカの胸に顔を
そんなシアノの頭を、ルカは苦笑しながらなでた。
「―――で? こいつが例のレクトって奴だな。」
洞窟の奥に鎮座しているレクトを見上げたルカの瞳が、剣呑に光る。
「ほう…。レティシアで慣れているのもあるのだろうが、私を前にして少しも怯えないとは、肝が据わった奴だ。」
レクトの瞳も、興味深そうな色をたたえた。
十数秒続いた、両者の視線の絡み合い。
先に目を逸らしたのはレクトだった。
「シアノ。少しルカと話したいから、体を貸してくれるかい?」
レクトは優しく問いかける。
いつもなら断らないはずの流れだったが……
「……やだ。」
何故かシアノは、泣きそうな顔でレクトの頼みを拒絶した。
その理由を行動で示すように、シアノはルカにしがみつく。
「ぼく、ルカと一緒にいる。ルカともっとお話しするの。離れるの、嫌だもん…っ」
これでもかという力で、ルカを締め上げるシアノ。
初めてと言っても過言ではないシアノのわがままに、キリハとレクトを目を丸くする。
抱きつかれているルカもたじたじだ。
「これはこれは……ものすごい懐きようだな。」
「ルカ……シアノと何かあったの? 遊んであげたりした?」
「い、いや…? オレがしたことなんて、飯を持っていったついでに小難しい話をしたくらいで……」
本人にもここまで懐かれる心当たりがないのか、ルカの周囲には大量の疑問符が飛んでいるようだった。
「そっかぁ。」
キリハは特に話を掘り下げず、ほどほどのところで引くことにする。
経緯はどうあれ、シアノがここまで気を許せる相手がいるのは大きい。
ルカがシアノを
「ねぇ、レクト。シアノの代わりに、俺の体って使える?」
試しに訊ねてみると、レクトは首を縦に振った。
「おそらく、数十分くらいなら使えると思うぞ。この前、かなりの血を飲んだからな。」
「ならよかった。じゃあ、俺の体を使っていいんだけど……」
キリハはそこで、うーんと
「レクトに体を貸してる時って、俺はどうなるの?」
「意識だけを残すか、眠るかだな。意識を残せるといっても体を使うことはできないから、夢を見ている状態になると思えばいい。」
「なるほど。その時にレクトと会話はできる?」
「もちろん。」
「オッケー。じゃあ、どうぞ。」
レクトの前で両手を広げるキリハ。
「お前は……勇敢なんだか、無謀なんだか……」
また説教が始まるのかと思ったが、レクトは何も言うことなく、首を地面に横たえて丸くなった。
それに応えて、自分も目を閉じる。
「行くぞ。」
そんな声が響くと同時に、体を後ろから引っ張られるような感覚がした。
「……ほう。」
キリハの体に意識を移したレクトは、軽く目を
「やはり、シアノの体とは違うな。ものすごく便利に体を動かせる。」
「俺から見ると、シアノも十分身軽だと思うけどなぁ……」
レクトに相づちを入れながら、キリハは初めての感覚に浸っていた。
夢を見ている状態とは、言い得て妙だ。
この感覚は、確かにそれに近い。
夢と違うことがあるとすれば、視界が少し遠いというか、ぼやけているというか。
意識も鮮明とは言い
「慣れればどうということもなくなるが……慣れるほど何度も、お前の体を使う予定はないな。きつければ、素直に眠っていろ。話が終わったら起こしてやる。」
「分かった。」
ルカとレクトがどんな話をするのかが気になるので、意地でも眠るつもりはないけど。
……という本音は、言わないでおいた。
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