どうしてこうなった――?

 逃げてきてしまった。



 早足に廊下を歩き、ルカは苛立たしげに爪を噛んだ。



 最悪だ。

 気が進まなくてここに近寄ろうとしない自分を叱咤して、何度も引き返しかけながら、やっとの思いでここまで来たというのに、あんなものを見てしまうなんて。



 しかし、あんなものを見てしまっては逃げるしかないではないか。

 泣き伏すサーシャに対して、自分はかけてやれる気のいた言葉など持っていないのだから。



 どうせ自分が介入しても、火に油を注ぐだけ。

 それならば、そっとしておいた方がサーシャのためというものだろう。



 自分にできることなど……



「くそ…っ」



 苛立ちばかりが募って、居ても立ってもいられなくなる。





 どうしてこうなった―――?





 考えても仕方ないことが頭を巡る。

 考えたくもないのに、疑問は何度も何度も思考を侵食し、苛立ちばかりを掻き立てて、不快感だけを大きくしていく。



 キリハがこんなことにならなければよかったのだ。

 キリハがいつものように笑っていれば、皆がここまで憔悴しょうすいすることもなかっただろう。





 キリハが――― 自分のことを、かばいさえしなければ……





「ちくしょう……」



 ルカはうつむく。



 考えたって、無意味なのに。

 悔やんだって、キリハが目を覚ますわけでもないのに。

 それでも時が経つほどに、不安は膨れ上がって心を圧迫する。





「……オレの……せいなのか…?」





 かすれそうな声は、誰の耳に届くこともなく空気に溶けていく……




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