エピローグ
フールの正体
「ちょっと、レティシア! なんでキリハに、血を飲ませちゃったのさ!?」
真夜中に押しかけてきた客に開口一番で怒鳴られ、早くも対応が面倒になる。
レティシアは彼を半目で見やり、ぶっきらぼうに質問へ答えた。
「まどろっこしかったのよ。一方通行に言葉が分かっちゃうと、こっちの話が通じないことに我慢ならなくなるものなのね。」
「いーや。君なら絶対に、気にもしなかったはずだよ。」
彼はそう断言する。
ああもう。
付き合いが長いとこれだから、余計に面倒なのだ。
確かに彼の指摘どおり、本当はキリハに血を与えなくとも、あの子に協力してやることはできた。
自分は安易に面倒事を抱えるのはごめんだし、基本的には傍観や受け身的な姿勢を維持していたいタイプだ。
そんな自分の性格を熟知している彼には、今回の判断がどうしても
……解せないのは、こちらとて同じことだが。
「ああもう! うるさいわね! 私だって、納得いってないわよ!!」
読経のように説教と文句を連ねる彼に、レティシアはたまらず
「納得……してないわよ。いくら託されたからって、こんならしくないことをしちゃうなんて。」
「託された…?」
彼の声のトーンが下がる。
「あんたにもリュード様に託されたことがあるように、私にもリュード様に頼まれたことがあったのよ。願わくは、人間を助けてやってほしいって。」
「リュードが、あの君に…?」
彼は世にも奇妙なことを聞いたと言いたげに、アホみたいな顔をしている。
「そうなのよ。でも、あの時って絶賛戦争中だったでしょ? 私もそれほど人間に関心なかったし、いくら頼まれたからって、人間に歩み寄れる自信もなかった。だからあえて、眠ることを選んだの。目が覚めた瞬間に殺されることも覚悟してたわ。」
最後にリュドルフリアと言葉を交わした日が、まるで昨日のことのように思い起こせる。
こんな大変な時期に、よりによってこんな性格の自分に、とんでもない頼み事をするものだ。
素直にそう言った自分に、彼はただ寂しそうに笑うだけだった。
もちろん、無理
ただ、もし遠い未来でお前が人間に手を差し伸べてもいいと思える日が来たのなら、その時は―――と。
「仕方ないじゃない。……あの子なら、助けてあげてもいいかって思っちゃったんだもの。」
溜め息をつきたいのはこっちの方だ。
どうしてくれる。
今までギリギリで部外者の立場を貫いていたのに、結局当事者になってしまったではないか。
とんでもない面倒事を引き受けてしまったのに、それでもいいかなんて思ってしまうのだから
まるでロイリアのような純粋な瞳をして、馬鹿らしく真正面から向かい合ってくるキリハに、それだけの価値を見出だしてしまったのだから。
「まあ、あんたにとっては都合がいいんじゃないの? どうせ、最初からそのつもりだったくせに。」
黙りこんでいる彼に、皮肉を込めて言ってやる。
「それは……」
明らかに言葉に窮する彼。
「………」
レティシアは目を細める。
彼は、元よりこういう人間だ。
理想が高すぎるのか、はたまた完璧主義で神経質なのか。
自分が思うように事が運んだとしても、それが自分の思う経路を通らなかったとなると、途端にこうして機嫌を悪くする。
「本当に、相変わらずプライドが高くて傲慢な男よね―――ユアン。」
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