声をかけてくる者



「そこの君、ちょっと待ってくれるかな?」





 暗い道を走っていると、ふと声をかけられた。

 そちらを見ると、数少ない街灯の下に傘を差した男性が一人。



 穏やかそうな男性だ。

 でも、彼が浮かべている微笑みはどこか胡散臭くて、一定以上は近づいてはいけないような気がする。



 シアノは警戒心をあらわにし、彼らを威嚇するように身構える。



 彼は見たことがある。

 父が、キリハと同等レベルに警戒していた人物だ。



 そして、彼が腕に抱くドラゴンのぬいぐるみは―――



「別に、そんなに怖がらなくてもいいよ。君に危害を加えようってわけじゃないから。」



「………」



「キリハ君から君のことを聞いて、少しばかり調べさせてもらったよ。できればしかるべき場所で、君を保護させてもらいたいんだけども。」



「保護…?」



 何を言っているのだ。

 意味が分からない。



 少なくともはっきりとしているのは、彼らの要求は飲めないということだけ。



「そんなの、ぼくは知らない。」



 シアノは無感動に告げ、その場を走り去る。

 走り去る、はずだった。





 ―――シアノ。





 頭の中に、そんな声が響くまでは。



 ―――代わっておくれ。私が話をしよう。



 その声は、気が抜けて膝が崩れてしまうほどの安心感をもたらしてくれる。

 不安でたまらなかったからこそ、泣きたくなるくらいに、その声を聞けたことが嬉しかった。



 やっぱり、自分の帰る場所はあそこなのだ。

 そう思うには十分だった。



「分かった。」



 シアノは微かに頷き、静かに目を閉じた。


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