悪い人は、嫌なくらい、意外にしぶとい(2)
ドロルドは一人、教会本部に戻ると、荷物をまとめはじめた。
「きょ、教祖様、どうなされましたっ」
信徒たちが、ドロルドの様子に慌てだす。
「こ、この国から出るのだっ」
振り返りもせず、そう答えるドロルド。枯れ木に変えられた右手に酷い痛みを覚えるも、このままこの国に居てはまずい、それだけはわかっていた。
教会本部に残っていたはずの黒い影も、先ほどの浄化の光で、王城にいたモノと同じくらい小さな埃カスのようになっていた。それらが集まり固まったところで、まだ、なんの力もないのは、ドロルドでもわかった。
再び、これらに力を持たせるためにも、『聖女』のいない国へ行かねばならない。
「誰か、冒険者ギルドに護衛の依頼を」
掠れた声でそう言うと、信徒の一人がすぐさま飛び出していく。
「教祖様、どちらに向かわれますか」
荷物をつめこみながら、ドロルドは考える。レヴィエスタ王国から離れた国。帝国はすでに崩壊が進み、辺境では独立の機運も高まっている。
「帝国の先、ナディス王国か、トーレス王国か」
「ソウロンやウルトガもありますが」
「亜人の国になぞ、行けるかっ」
人族至上主義のドロルドには、屈辱でしかない。
「きょ、教祖様、ギルドに行ってまいりましたが……」
「どうだった」
「申し訳ございません、今は、適当な冒険者がいないと……」
「なんだとっ」
どこにそんな力があったのか、と思うほどに、ドロルドは怒りのままに、教会本部を飛び出し、近くの冒険者ギルドへと駆け込む。
「冒険者を用意出来ないとは、どういうことかっ」
「……どちらさまでしょう」
「ハロイ教教祖、ナリアード・ドロルドだ」
「あ、先ほどの……えと、今はですね、ちょっと新しいダンジョンが出来てですね」
「だから何だというんだっ」
「上級の方々は、そちらに好んで行かれてしまっていまして」
グッと、言葉を失うドロルド。その間に、信徒たちが追いついてきた。そして、再び、同じやり取りが繰り広げられる。
「だから、護衛の依頼を頼んでるんじゃないかっ」
「しかし、ご希望のランクの方は」
ドロルドは目を閉じる。高ランクではなくとも、人数を揃えて行けばなんとかなる。高ランクが集まるのを待つ時間はない。
「……構わん」
「教祖様っ、しかし」
そんな話をしている時。
(GYAAAAAAAAA……!)
黒い影の断末魔が聞こえた。
――まさか。
振り返ると、大柄な男女の冒険者たちの後ろに、小さな少女の姿が見えた。
――まさかっ!
フードを深くかぶり髪色はわからないが、ドロルドにはわかってしまった。
ドロルドは急いでその場から逃れようとした。しかし、好奇心が、少女へと目を向けさせる。鋭く睨むその黒い瞳に、恐怖を覚え、ドロルドはそのままギルドから飛び出して行く。
「教祖様っ!」
「お待ちくださいっ!」
――早く、早く、この国から逃れねばっ!
息をあげながら、ドロルドは再び教会本部へと駆け戻ったのであった。
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