第208話
最近、王都から嫌な話を持ってくるのは決まってイザーク兄様だ。王家の近くに侍っているんだから、そりゃぁ、確実な情報源ではあるんだろうけれど。条件反射で、兄様の顔を見ると、眉間に皺がよる。
「ミーシャ! そんな怖い顔をしないでおくれ!」
まるで騎士がお姫様にプロポーズするように片膝をつく兄様。一瞬、ホストの姿が頭をかすめたのはご愛敬。
「今度は何なんです?」
「可愛い妹の顔を見に来たのに、つれないなぁ」
「……本題は?」
午後に入ってお店のほうが落ち着いたので早めに閉めて、リンドベルの家に来たのを、ジーナ姉様にお茶に誘われたところだったのだ。サロンの日差しのあたるところに座る姉様の美しさに癒され、自分でいれるより、人にいれてもらう美味しいお茶に和んでいた。
そのいい気分を、一瞬で台無しにしたのだ。睨まれても仕方ないと思う。
「厳しいな。姉上、そう思いませんか」
「フフフ、わざわざ転移陣を使って戻られたのに、ミーシャの顔だけ、というのは王家に仕える者としてはマズイのでは?」
「グッ、それを言われてしまいますと」
「オホホホ」
私の隣に座って、頭を撫で始めた兄様。チロリと目を向けると、バチッと目があってニッコリと微笑む。むぅ……イケメンめっ。すぐに視線を外して、コクリとお茶を飲む私。
イザーク兄様が真面目な顔になって、姉様と私、両方に目を向ける。
「第一王子のレイノール様が帝国の王子の誕生祭に行かれることになって、同行することになりました」
第二王子が公爵に臣籍降下されたので、イザーク兄様は第一王子の警護担当に異動になっていたそうだ。そして、これが異動になって初めての他国への訪問での同行になるのだとか。
帝国側も、皇太子の初めての子供だそうで、かなり大規模な誕生祭を催すことになり、各国へ招待状を送っているのだとか。隣国ということもあって、レヴィエスタからも第一王子がお祝いに行くことになったそうだ。
「そういえば、兄様は帝国に留学されてたのですよね?」
「学生時代にね。友人も何人かいるんだが……」
誰かを思い出したのか、なんだか苦い顔をしている。まぁ、誰しも、苦手と思うような相手はいるよね。それがどういった人かまではわからないけど。
「それで、第一王子がミーシャも行かないかって言ってね」
「は?」
思わず、イザーク兄様を睨んじゃいましたよ。
だって、いきなりすぎません? そもそも、なんで私? なんで今、帝国?
「ほら、一応、教会の本拠地は帝国だし、一度、教皇様にもご挨拶に行ってもいいかなって」
「……行く必要あります?」
「……うん、できれば」
困ったような顔の兄様。兄様のその様子に、何かある、と思って話を促すと、どうも帝国側からの要求らしい。聖女を連れてこい、と。たぶん、その生まれた子に聖女からの祝福というのをしてもらいたいんだそうだ。同じ『聖女』だったら、ドッズ侯爵令嬢がいるじゃん、って思ったんだけど、やっぱり新興宗教よりは、本家本元の教会本部に認められた私の方がいいんだとか。
国として断れなくはない、とは言うものの、力関係でいえば、やはり圧倒的に帝国の方が強いらしい。極力、事を荒立てたくはない、ということなんだろう。
まぁ、帝国という国に興味がないわけではない。その教皇様っていうのにも会ってみてもいいかもしれない。
「……仕方ないですね」
「ありがとう! ミーシャ!」
「ぐえっ!?」
兄様、いきなり抱き着かないでくださいっ! 潰れます!
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