第338話

 昨夜は、最後には酔いつぶれてしまったおじいさんを残し、私とイザーク兄様は、宿へと戻った。出迎えに、あの無表情エルフがいてびびった。

 当然、さっさと宿を変えることにした。昨夜だって、落ち着いて寝るために結界張って寝たくらいだもの。高級宿なのに!


「またのご利用をお待ちしております……よろしければ、こちらをお嬢様に……」


 宿から出る際に渡されたのは、大き目な緑の葉がメインで作られた造花の髪飾り。渋い。いや、これがエルフ的には美しいもの、なんだろうか?

 受け取るときに、触れた指先にピリリと刺激が走った。

 リンドベルの家にいた時にも、贈答品の中に、稀に、こういう指先にピリッとした痛みを感じる物が届くことがあった。

 基本的には、ちゃんとチェックされてから私の手元に届くのに、うまーく紛れこむヤツがあるのだ。そういうのは大概、呪いとかの悪意のあるモノだったりする。

 まぁ、私にはアルム様の加護があるので、まったく機能しない。そして、当たり前だけど、倍返し、するよね~。


 そして、今目にしているコレは……なんかヤバいものなんじゃないの?


「……ありがとう」


 若干顔を引きつらせながらも、受け取る私。

 そして、そっと『鑑定』をする。


 ――うん、質が悪いね。


 この髪飾りには追跡の能力が付けられていた。GPSみたいなものなんだろうか。私たちがこれからどこへ行くか、探るつもりなのか。それとも、追いかけてくるつもりなのか。

 その上、手にしたら離れないようになってるみたい。たぶん、捨てても捨てても戻ってくる。ホラーかよ、ってツッコみたくなる。ほんと、呪いみたいなもんだ。最悪。

 しかし、ここで下手に騒いで、今、私の力のことを知られるのは、得策ではないだろう。余計に執着されそうだ。

 私はニコリと笑って、そのまま自分のローブのポケットにしまい込む。私には機能しないだろうけど、イザーク兄様が手にしたら、確実に呪われちゃう!


 私たちは宿を後にすると、昨日入れなかった商人ギルドの建物に向かう。地図はあっさり窓口で渡された。一応、銀貨三枚。なかなかのお値段だけど、サイズは新聞に入れられている大きめなチラシくらいで、なかなか立派なものなのだ。


「王都はずっと東にあるのね」


 私たちは商人ギルド内にある喫茶スペースで、地図を広げている。

 どうもこの大陸のほとんどが森のようだ。


「ふーん、シャイアール王国っていうのね」


 初めてこの国の名前を知った。たんなるエルフの国っていう認識しかなかっただけに、ちょっと新鮮。


「ああ、一応、北にも国があるようだな。こっちはエノクーラ王国、南にはノヴォルクスとヤートルっていう国があるようだ」


 地図のメインがシャイアール王国だから、他の国の形まではわからない。


「どんな国なんだろうね」

「行ってみるかい」

「フフフ、当然」


 私たちは商人ギルドから出ると、乗合馬車の集まっている場所へと向かった。

 さすが港町だけあって、人の多さもさることながら、荷物をたくさん載せた大き目な馬車や、護衛の冒険者の数の多いこと。

 その上、乗合馬車の客目当てなのか、露店も多いからか関係ない人間も多い。あまりの人の多さに、イザーク兄様と離れ離れになりそうになる。


「ミーシャ、手を」

「う、うんっ」


 イザーク兄様の大きな手を握りながら、なんとか乗合馬車の窓口のある建物に到着。その頃には、私はもみくちゃ状態で、ボロボロになっていた。


「……年末のアメ横みたいだわ」


 思わず、大きく溜息をつく私。


「大丈夫かい?」

「ええ、とりあえず、中に入ってみましょう?」

「そうだね」


 イザーク兄様が建物のドアを開くと、中は中で人でごった返していた。

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