第218話

 兄様が望む婚約なら、文句はない。それが国から求められたものであれ、納得しているのであれば、それは仕方がないことだろう。しかし。


「魅了を使ってまでするのは、いただけませんねぇ」


 今の私、轟轟と音をたてて、背後に炎を纏ってる気分です。私は腕を組みながら、皇太子を見据えてる。たぶん、眦つり上がりまくりです。ええ、もう、怒りMAXです。精霊王様たちも、ビビるくらいに。


「なんだと?」

「魅了を使うのは、この国の文化なんですかねぇ。先日も我が国で魅了による事件があったと記憶してますが……確か、それも、黒幕が帝国に逃げたらしいという話を聞いたような……こちらでは常識ということなのでしょうかねぇ」

「な、何を根拠にっ」

「あら、だって、あのご令嬢、兄様に魅了を使っていますわ」

「何っ!?」

「まったく、お里が知れるというものですわ。この国の民度も大したことはない……皇族がこのような体たらくでは、仕方がないんでしょうけどね」


 私の怒りに敏感に反応した火の精霊王のせいか、室内が徐々に暑くなってきた。たぶん、彼が一番、怒りに反応しやすいのかもしれない。私自身はそれほど感じないけれど、他の面々は、額に汗が浮かびあがってる。ざまぁ見ろ。


「早い所、あの令嬢を何とかしないと、私、何をするかわかりませんよ」

「た、たかが小娘の分際でっ……ギャァァァッ!」


 皇太子の背後に立っていた生意気な若い侍従が怒鳴って、前に出て来ようとしたと同時に、彼の身体が一気に炎で燃え上がった。一瞬で火がついたあたり、私の怒りのせいで、火の精霊王のストッパーは効かなくなってるのだろう。それでも、この程度で済んでよかったのかもしれない。下手すれば、目の前、火の海だった可能性だってある。

 ……しかし、グロいのは嫌いなんだけどなぁ。室内は身体が燃える臭いが充満する。バタリと炭になった遺体が倒れ込み、簡単に崩れ落ちてしまう。

 侍女たちが甲高い叫び声をあげると、勢いよく部屋から逃げ出そうとドアに殺到した。しかし、そのドアはビクともしない。ドンドンッとドアを叩き、泣き叫ぶ侍女たち。

 皇太子も立ち上がり、顔を青ざめながら叫ぶ。

 

「ど、どういうことだっ。この部屋では魔法は使えないはずなのにっ」

「へぇ……聖女相手に魔術を封じようとしたわけですか」

「クッ!」


 皇太子のネタばらしに、今度は水の精霊王が怒りが爆発。美女が怒ると怖いわよ~。


「な、なんだ、これはっ!」


 皇太子の脚が、ピキピキと音をたてて、徐々に凍りついていく。へぇ、水の精霊王は氷も操ることもできるのねぇ、などと感心しながら見つめる私。氷はどんどん皇太子の腰のあたりまで上がっていく。


「ヘイデンッ、どうなっているっ!」

「も、申し訳ございませんっ、私にはどうにもできませんっ」


 皇太子に名前を呼ばれて、彼の背後からいきなり現れたのは、黒いローブを羽織った四十代くらいの男。たぶん、地図情報に出ていた影の護衛みたいな人だ。なるほど、格好からして、彼は魔術師ということか。この部屋で魔術を使えないように何かしてたわけね。


「それはそうよね。だって、これは私の魔術じゃないもの」


 私は彼らを睨みつけながら、片手をあげる。それをキッカケに、私の周囲に四人の精霊王たちが姿を現わした。ミニ版ではなく、正式版。ド迫力の美男美女軍団の登場だ。

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