第188話
私たちは礼拝堂から移動して、教会内にある大きな応接室のようなところにやってきている。
先ほど、いきなり跪いたのは、やっぱり教会本部からいらした枢機卿様だった。なんでいきなり跪いたかと言うと、どうも彼には何かが見えていたらしい。
「ああ、エンディメン殿にはお見えになりませんでしたか。あのような荘厳な風景が」
なんか恍惚とした表情で語りだす枢機卿様に若干引き気味の私たち。
「白い眩い光が聖女様に降り注いでいる様に、私はよく叫び声を上げなかったと思います。そして、聖女様の周りを舞うように四つの光の球が飛んでいる様子に、貴方様がどれほど神に愛されているのかを、思い知らされました」
……ほぼほぼ、合ってる言動に、びっくり。本当に見える人には、見えるものなのだろうか、逆に感心した。
私が何にも言わないものだから、周りの方が心配そうに、見つめている。これは、ちゃんと説明すべき、なんだろうか。しかし、どこまで……。
『美佐江、彼らであれば大丈夫よ』
「えっ!?」
耳元で聞こえてきたのは水の精霊王。驚いて、振り向いてみれば、ミニチュアがぽよぽよ浮いてるっ!?
「ミーシャ、どうし……」
「おおおお!」
イザーク兄様の問いかける言葉を打ち消す唸り声を上げるとともに、枢機卿様は椅子から立上ると、すぐさま床に土下座までしている。あまりの声の大きさと素早い動きに、エドワルドお父様まで立上って、反射的に腰に帯びていた剣に手を伸ばすほど。
「アルム神様に感謝をっ!」
『失礼しちゃうわ。私はアルム様じゃないのにっ』
うん、彼女の言葉に何の反応もしないところを見ると、声までは聞こえない模様。それでも、枢機卿様にはやっぱり光の球に見えるのだろうか。
「あ、あの枢機卿様?」
「どうぞ、ノートンとお呼びくださいませっ」
「えと、ノートン様?」
「様、などとは滅相もないっ! どうぞ、ノートンと呼び捨てに」
「いやいやいや、さすがに呼び捨ては」
何度かそのやりとりをしてなんとか『ノートンさん』に落ち着いたけど、それまでのやりとりに疲れてしまったよ。
「で、ノートンさん、あなたには彼女が見えるのですか?」
水の精霊王は、今は私の肩のあたりにニコニコしながら座っている。この状況が楽しいんだろうか。
「彼女ですか? 私には水色の光の球にしか見えませぬ。それは……アルム神様の加護の球ではないのですか?」
ノートンさんの話によると、過去にも、神殿の神官の中に光の球を漂わせた者がいたことがあったとか。その者たちの多くが聖女に近しい能力を持つ者が多かったそうだ。ただ、その球の正体までは正確には伝わっていなかったらしい。その神官には見えていなかったのだろうか。
そして、私のその光の球は、どうもかなり大きいらしい。どれくらいの大きさか聞いてみると、ノートンさんは自分の拳を握って見せた。うん、けっこう大きいね。てっきり蛍の光くらいのサイズかと、勝手に思ってたよ。
しかし、エドワルドお父様たちには見えないのか、私たちのやりとりを不安そうに見つめている。
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