第189話

 とにかく、いつまでたっても話が先に進みそうもないので、ちゃんとノートンさんには椅子に座ってもらってから、説明をした。


 お祈りしてたらアルム様がやってきて、教会に来たらお話できるということと、四つの精霊王に加護をいただいたということ。そして、今、私の肩に乗っているのは、水の精霊王だってこと。 


 ……私の話に固まる周囲。そうだよねぇ。いきなり、そんなこと言われたって納得できないよねぇ、と思ったけど、ノートンさん一人は、歓喜の笑みを浮かべて私に祈りを捧げ始めてる。私は神様じゃないよー(棒読み)。


「私には、まったく見えないのですが……」


 困惑気味のエンディメン枢機卿。この前の謁見の時についてきてた若い人たちも部屋の隅で立っているけど、彼らも同様に首を傾げている。同じ教会の人でも、反応がここまで違うのね。


「ああ、仕方がありません。私には聖女認定をするための魔道具を教会本部から貸し与えられているのです」


 そう言って聖職者の服の下から、大きな赤い石の下がったネックレスを取り出して、手に取って見せた。正直、ゴツゴツと歪な形の石に、着飾るためのものではないな、というのが第一印象。もうちょっと加工とかすれば、綺麗なペンダントヘッドになりそうなのに。


『あら、こんなものが残ってたなんて』


 ポツリと呟いたのは水の精霊王。その声には、少しばかりの懐かしさのようなものを感じる。


「どういうこと?」


 私は彼女に聞いたつもりだったのだけれど、答えたのはノートンさん。


「これは『聖女の赤い涙』と呼ばれる魔石でございます」

「魔石?」

「はい。こちらは教会本部に長年宝物庫に仕舞い込まれておりまして、聖女の認定の時にだけ、世に出すことになっているものでございます。この魔石の力のおかげか、普段なら目に見えないもの……聖女様のおっしゃる通りなら、精霊の光を目にすることができるのでしょう」

「へぇ……」


 素材そのものが何を元にした物なのかは、誰もわからないそうだ。そして、その魔石に認められた者でないと、触れることが出来ないということで、聖女認定者の試金石みたいなものでもあるんだとか。きっと教会本部というところには多くの認定者候補がいただろう。その中から選ばれたノートンさんは、いきなり土下座しちゃうような人だけど、それはそれで凄い人なのかもしれない。


「さぁ、聖女様、どうか、この石に触れてみてくださいませ。認められれば、この石は赤く光り、認められなければ触れることすら叶いません」

「……いいんですか?」

「どうぞ」


 笑顔のノートンさんに差し出されるそれに、私はドキドキしながら右手を伸ばし、そっと指先が触れた瞬間、急に魔石が真っ白な光を放ち、視界が見えなくなった。


「うわっ!?」

「なんだっ」

「きゃっ!」


 あちこちで声が上がる。某アニメ映画のワンシーンじゃないけど、光にやられて目が見えないっ!


「な、なぜこんな色にっ!?」


 焦ったノートンさんの声が聞こえる。

 確かに赤くないし、そもそも、こんなに激しく光るとは思ってなかったのだろう。予想外の状況に慌ててるみたい。


『あらまぁ、ずいぶんと気に入られたみたいねぇ』

「え? 気に入られるって、何?」


 耳元にいた水の精霊王が、コロコロと笑ってる。こっちは笑ってる場合じゃないんだけど。


『あれはね、元々は古竜と呼ばれるモノの魔石なの』

「コリュウ?」

「ミーシャ、誰と話してる?」


 すぐ近くからイザーク兄様の声が聞こえて、びっくりする。


「あ、えと、精霊さんが魔石のことを話してくれてて」

「なんと! 聖女様は精霊様とも会話ができるのですかっ!」


 ……ノートンさん、会話の邪魔しないでぇぇぇ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る