第190話

 荒ぶるノートンさんを、宥めるのに一苦労した私たち。なんというか、すでに一仕事終えた感がありありなんだけれど。


 そして、水の精霊王が『古竜』というモノについても説明してくれた。

 ワイバーンもドラゴンの一種ではあるものの、そんなのよりももっと大きくて強大な力を持っていて、人間なんかよりも、知識も知恵もある存在。その中でも『古竜』は創世の頃から存在していると言われるモノらしい。たぶん、若かりし頃に夫と見に行った洋画に出てくるような恐竜チックなドラゴンなんだろう、と想像する。

 その『古竜』、今では私たちが住んでいる大陸には存在していないらしい、海を隔てた別の大陸にひっそりと暮らしてるそうだ。

 そして、魔石になったと言われる『古竜』はかつて一匹だけいたらしく、初代の聖女の友と言われた存在だったらしい。どういった経緯で教会の元に来たのかは不明だそうだけれど、この魔石には聖女への思慕が残されているそうだ。そのために、聖女と思しき者が触れると、様々に反応を示すらしい。


『あんなに光るなんて、よっぽどよねぇ』

「はぁ……そうですかねぇ……」


 説明を聞いた後でも、水の精霊王の言葉に、気の抜けた返事しかできない私。そんなこと言われても、ぴっかーんと光っただけだし。『古竜』見たことないし。その、なんというか、正直、ありがたみがわからんのよね。


 目の前で期待の眼差しを向けてくるノートンさんに、仕方なく水の精霊王の言葉を伝えると、「おおおおおっ!」と声をあげて、やっぱり土下座してくるし。その様子に、エンディメン枢機卿たちも引き気味。わかる、わかるよ。私も、そっち側に行きたい。


「と、とにかく、聖女認定はされた、ということでよろしいか」


 エドワルドお父様がなんとか割って入ってくれたことで、その場のおかしな空気も、なんとか落ちついたけど、ノートンさんのキラキラの眼差しは健在。


 聖女認定は終わったので、これで、ちゃんと教会に認められた聖女ってことになるんだろう。何か認定書みたいなものがあるのかと思ったら、そういうものはないらしい。まぁ、教会の偉い人たちの目の前で、認められたってことだし、これで終りなのかな、と思ったら、ノートンさんから、帝国にある教会本部へのお誘いをされるはめに。


「今回の聖女様の奇跡をぜひ、教皇様にもお見せいただきたいのです!」


 むぅ。やっぱり、というか、なんというか。

 しかし、今は、帝国行くより、気になることがあるので、即、お断りをいれた。ノートンさんの『ガーン』という効果音が聞こえそうな表情に、笑いそうになった。

 ありがたいことに、破門という話はなくて(そもそも信者でもないし)、むしろ、辞めないでぇ、的な感じで、ノートンさんは完全に崩壊していた気がする。当然、私だけでなく、リンドベル家一同、笑うのを堪えるのが大変だった。


 ……でも、そのうち帝国には行くかもしれない。なんとなく、そんな気がする。

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